2018-01-01から1年間の記事一覧

2018年を振り返って二十一世紀の認知科学関連ブームを考える

2018年の認知科学関連ブームを振り返る 2018年を振り返って思うのは、実用的な方向に本格的に振り向いたことで人工知能ブームや道徳心理学ブームがようやく収まってきた感覚であり、その結果として二十一世紀に入ってから断続的に続いていた認知科学関連のブ…

ニューラルネットワークの歴史について少しだけ確認する

ネットで調べものをしていたときにたまたま「NNが心理学と生理学から離れていった瞬間」を見つけて読んだ。Nature論文(1986)のことは知らなかった(私が知っていたのは同年に出た二巻本の方)だったので、そこは勉強になったが、それ以外については同意できな…

ベイジアンの合理的分析について考える

前回の記事でTauber et al."Bayesian models of cognition revisited"を読んでから、その著者らが批判したがっている最適アプローチなるものが気になって調べてみた。まず、実際に調べてみるとTenenbaumらの研究が合理的だとされる理由がはっきりとしてきた…

おかしなおかしな認知のベイジアンモデル批判

べイジアンについては引き続きいろいろ調べ続けているが、その中で『心理学評論』第61巻1号 特集「統計革命」を最近になって見つけた。この特集への感想として初めに思ったのは、思ったよりも特集名に合致した論文はそれほど多くないことだ。「心理学評論」…

カントから見る予測符号化と合理的ベイジアンの特徴

「The predictive processing paradigm has roots in Kant」を目にして間もないうちは、これを元にして予測符号化(predictive coding;predictive processingとも呼ばれる)と表象主義について記事を書こうと予定していたのだが、そもそもこのテーマ自体が広大…

4E認知は仲良しごっこのウソお友達グループだったのか?

認知科学では二十世紀の末頃(特に80年代から90年代まで)に、主流(特に古典的計算主義)に対抗する動きとして身体化論の流れが様々な形で起こった。それは二十一世紀にも受け継がれて、主要な概念であるembodied,embedded, extended, enactiveから頭文字を取っ…

拡張された心はどこに行くのか?

二十一世紀に入ってからの身体化論(流行りの言い方だと4e認知(embedded, extended, embodied, enactive))は、二十世紀までの古典的な身体化論に比べるとオリジナルな議論は少なくて、二十世紀までに出てきたのと同じテーマを繰り返し論じている傾向が強い。…

最近の身体化論のどこが問題なのか?

ここに身体化についての記事を書くのは構わないのだが、それをするには躊躇してしまう所もある。最近の欧米では身体化論(または4e認知)は流行り気味だが、日本ではその流行りはほとんど伝わっていない。最近の日本でも身体化論が流行ったかのような気配が生…

身体化論をテーマ別に分類してみる

私は身体化論に厳しいと書いたが、それは私が身体化論が嫌いな訳ではなく、むしろ元々は身体化論には好意的だったので一通りの知識は持っている。ただ翻訳されたノエ「知覚のなかの行為」を読んだ辺りから疑問を感じ始め、その後ネットで哲学者による身体化*…

社会的認知とか何か?を考えてみる

社会的認知(social cognition)についてはもう少しちゃんとここで書いたほうがいいのではないか?という思いは以前からあった。そう思ったきっかけのひとつとして、欧米の哲学者によるタイトルに社会的認知を称した論文を幾つか読んでいたら心の理論のことし…

還元的科学と非還元的人文学の対立の系譜を乗り越える

学生時代に認知科学に興味を持ってからかなり経つが、その間に認知科学への批判は色々と聞いてきたし、認知科学的な研究がかなり認められるようになった現在でもたまにまだ聞く。認知科学の良い所はそうした様々な批判も取り入れて研究に反映されていること…

身体化としての社会的プライミングとは何か?

近年になって身体性認知科学が流行っていると言われることがある。確かに文献の数の上ではその気配はあるが、その実態は怪しいところもある。特に身体性や身体化についての考え方が論者によって様々で定義がよく分からない上に、どこまでが科学的に意義のあ…

なぜ今の人工知能ブームは認知科学とあまり関係がないのか?

現在は三度目の人工知能ブームだとも言われている。それは深層学習と呼ばれる機械学習の発達による成果によるところが大きい。しかし、人工知能と関連が深い認知科学ではそうした人工知能ブームの影響はあまりない。人工知能そのものについては様々な良書が…

空虚な人工知能脅威論より恐ろしいこと

最近は人工知能ブームで様々な人工知能論が増えてきた。しかし、残念ながらその中には人工知能についての正しい知識の基づいていないろくでもない話も多い。あの有名なTED講演にさえそれがあったのを見つけたことがこの記事を書こうとした動機になった。 中…

神経科学者セスによる予測符号化についてのTED講演を見よう

脳が「意識された現実」という幻覚を作り出す仕組み TEDは学者や企業家をはじめとした様々な注目すべき人たちによる講演を動画として公開している有名な所だが、たまたま専用アプリが目に入ったので試しに見てみた。TED講演の存在は以前から知ってはいたが英…

人工知能ブームに乗った漫画から考えた

最近になって人工知能を扱った漫画は増えているが、この前はキンドルで「バディドッグ」が無料で試し読みできたので読んでみた。(残念ながら?)人工知能を扱った漫画の多くは現実の人工知能の進展とは無関係な純粋なSF的設定であることが多く、単なるフィクシ…

人工知能ブームのとばっちり

いつものようにネットで調べものをしていたら、あるサイト(AIの真の可能能を見極めよ)で人工知能について私の知っていることとは違うことが語られていた。やっぱり自分が口出さないといけないのかな〜、でも正しいサイトがあればそれでいいや!と思って他…

フリス「心をつくる」によってpredictive codingについてのモヤモヤをなくす

前回紹介した「心をつくる―脳が生みだす心の世界」は本当に今になって読んでよかったと思っている。これを読んでpredictive codingに関して感じていたモヤモヤがなくなってきた。それをいくつか挙げよう。 前々回に紹介した「予測的符号化・内受容感覚・感情…

クリス・フリス「心をつくる」

「心をつくる―脳が生みだす心の世界」 脳イメージ研究の大御所が一〇年以上前に予測脳について書いていた先駆的な心の科学入門の書 近年、心の科学(認知科学)界隈で予測脳(予測的符号化)がよく話題になっているのだが、その関連でこの本の原著の存在を知った…

predictive codingに関連したいくつかの疑問

ここ近年はpredictive codingについて調べることが多い。これはアンディ・クラーク経由で知ったのだが、科学者であれ哲学者であれ話題にする人は増えてきている印象がある。日本語の文献についてはいいものがなくて長らく困っていたのだが、やっと「予測的符…

松原望「ベイズ統計」

「ベイズ統計学 (やさしく知りたい先端科学シリーズ1)」 統計学入門でも人工知能入門でもある、数式よりも考え方を重視したベイズ統計の入門書 数式が少ない考え方を伝えることに重点をおいたベイズ統計学の入門書。これまでのベイズ統計入門によくあった数…

新たに(認知科学的な)言語理論の解説記事について書けたらいいなぁ〜という願望

ここ最近ずっと(未だに)このブログの人気記事が生成文法と認知言語学の解説記事であることには正直戸惑っている。あれは結構前に人目につかないことを前提に書いた記事*1で、一部のこのブログのマニアだけが気づけばいい程度に思っていたので、こんなに読ま…

キンドルで読めなかった日本語PDFを読めるようにする方法(Linux版)

幾らか前にKindleを手に入れてから、PDFの論文を読むのがとても楽になって助かっている。しかし、キンドルを使ってPDFで日本語の論文を読もうとすると困ったことになることがある。それは、キンドルで日本語が表示されないPDFがたまにあることだ。仕方ないの…

そのモデルにとってベイジアンは道具なのか部品なのか?(前回の記事への補足)

やっぱりベイジアンは本で勉強した方がいいのかな?と思って、本屋に棚を改めて物色しに行った。そしたら、この前には見かけなかった書籍も見かけたりして収穫はあったのだが、同時にここで説明しておいた方がいいかなかな?という事も頭に浮かんできた。去…

認知のベイジアンモデルについて(フライング気味で)考えてみる

認知科学のベイジアンモデルはただいま勉強中で、直接に解説できるほどの理解には達していない。とはいえ、以前に比べればベイジアン・アプローチについて何となくのイメージは掴めるようになったので、地道ながら進歩はしていると思う。ただ、私がベイジア…