哲学

人の振る舞いのルールは変わるのか?を哲学的に考える

最近インターネットである記事を読んでいたときに、クリプキの「ウィトゲンシュタインのパラドックス」における議論が、ルールの改定を含意してるかのような言い方をしているのが目についた。これは端的に間違っているので困ったなと思ったが、この話は前々…

セラーズ右派と左派への分岐をその起源に遡ってみる

最近読んだ、川瀬和也「言説的実践とヘーゲル的相互承認」という論文が面白かった1。 この論文の中で、セラーズ左派とセラーズ右派の話題が出てきて、気になったところがあったので、参照文献からその元となる論文 James R. O’Shea"Introduction : Origins a…

認知科学における計算主義を方法論的な視点から擁護してみる

自分は二十数年前の学生時代に(科学としての)認知科学に魅了されて今に至るのだが、その中で認知科学への無理解な批判には何度も会っている。認知科学を一時の流行とか過去の遺物とか言ってた奴らは、欧米の事情を知らないただの無知なので付き合うだけ時間…

生命と心の連続性を論ずる難しさについて論じてみる

最近、たまたま生命(life)と心の(mind)の連続性についての論文を読んだのだけれど、どちらにも多かれ少なかれガッカリした。生命と心の連続性というとエヴァン・トンプソンの著作が知られているが、どちらの論文にも、トンプソンの著作からの共通の議論みた…

予測処理(予測符号化)の源を引用から探る

今の認知科学で大いに話題となっている予測処理およびその元である予測符号化には、歴史的に見ると何人もの先駆者がいることはよく指摘される。彼らは皆、知覚とは単に外界から感覚を受けとるだけではないことを強調する点で共通している 多くの研究者が予測…

自由エネルギー原理にとりあえずの見切りをつけるために考えてみた

自由エネルギー原理には前々からしっくり来るところがなかった。私自身は予測符号化について勉強することから始めたので、自由エネルギー原理には後から接したことになる。自分は予測符号化には好意的だ。 しかし、自由エネルギー原理の源には予測符号化があ…

今、ポーランドの認知科学の哲学が熱い!

今、ポーランドの認知科学の哲学が熱い! 今の時代、様々な論文がプレプリントやオープンアクセスの形でインターネットで公開されている。認知科学関連の論文もネットで検索すると、英語で書かれた最新の論文がしょっちゅう見つかるので手に入れて読むことが…

科学において理論は再現性問題に貢献できるのか?

同じような実験結果が再現できるか?を問う再現性問題を論ずる心理学者は日本でも増えてきて、私もよくそれらを興味深く読むことがある。 ただ、心理学者の語る再現性問題を読んでいて時々気になるのが、心理学は理論を発展させれば再現性問題は解けるかのよ…

最近の認知科学の哲学における用語「実在論」の濫用を憂う

前回の記事では、科学における実在論(realism)を取り上げた。あらためて、該当箇所を引用しておこう。 科学哲学にはある大きな論争がある。それは、科学的に観察できない現実を信じることは正当化されるか?(実在論)、観察できない何かは科学的に観察できる…

フリストンブランケットはどんな科学モデルなのか?

論文「皇帝の新しいマルコフ織物」 今回、ある程度突っ込んで紹介したいのは、次の論文だ。 google:Jelle Bruineberg Krzysztof Dolega Joe Dewhurst Manuel Baltieri The Emperor’s New Markov Blankets 論文のタイトルは、おそらくペンローズ「皇帝の新し…

最新のリバタリアニズム研究を紹介した記事を読む

ピーターさんがnoteに書いている、最新のリバタリアニズム研究を紹介する連続記事は、少し前からここで紹介したいと思っていた。 しかしだんだんと、これらはロールズやノージックについてそれなりに知識ないと分からないのでは?と気づいてから、躊躇するよ…

人文学の危機を考える助走に向けての準備中

人文学の危機については以前から調べていて、記事を書く機会をうかがっていた。日本の人文学者の書いた人文学擁護論は幾つか読んだことがあるが、虚しい自己弁護を垂れ流してるだけとしか思えず、不満しかなかった。最近見たものだと次のものがあるが、これ…

反表象主義を思弁的実在論の視点から説明してみる〈後編〉

前編からの続き 反表象主義の主張をあらためて確認する まずは、反表象主義の中心的な主張である「内容の難しい問題」(hard problem of content)を説明した、前回に翻訳した部分をもう一度引用します。 心は本質的に内容を持つ訳ではない、なぜなら内容を伴…

反表象主義を思弁的実在論の視点から説明してみる〈前編〉

認知科学における一立場である反表象主義については、このブログでも折りに触れて軽くは言及してきた。しかし、反表象主義について独立した記事を書くのはずっと躊躇してきた。 それは、私が反表象主義に批判的なのに日本では反表象主義がほとんど知られてい…

2010年代に私が感激した認知科学の哲学論文BEST3

もう2019年も終わるということで、2019年の認知科学を振り返ろうとする記事を書く計画は立ててみた。しかし、去年までの人工知能ブームが収まった今年は特にこれといった特徴を思いつくこともない。もしかしたらあったかもしれないが私には分からない。predc…

解釈主義は機能主義に反しているのか?

具体的な書名はあえて挙げないがある日本の学者の書いた本の中で、解釈主義は行動主義なのであって機能主義には反しているという主旨の記述を見たことがある。残念ながらこれは完全なる間違いである。おそらくその学者は代表的な解釈主義者であるデネットが…

近年の哲学での方法論的自然主義の隆盛は明らかなのに日本ではあまり知られてないよねぇ

自然主義とは何か?その二類型 自然主義について詳しくは哲学者パピノーによる「SEPのNaturalismの項目(英語)」がお勧めなんので是非参照してもらいたい。論者によっては用法がかなり異なるので定義するのは難しいが、主要な用法としては存在論的自然主義と…

マルクス・ガブリエルはどんな存在でも認める都合のいい欲張り存在論者か?

去年に「いま世界の哲学者が考えていること」を読んで興味を持ったマルクス・ガブリエルについて記事に書こうとはずっとしていたのだが、ネットで調べて考えた結果として私にはそれほど興味が持てなくなり書く気が失せていた。以前までかろうじて持っていた…

汎心論の哲学史をほんの少しだけ調べてみた

この前チャーマーズの汎心論概論の論文を紹介したけれど、チャーマーズ自身が現代の哲学で主流であるはずの唯物論(物理主義)を見限って、汎心論と(実体)二元論に見込みがあると言っているのに驚いた。唯物論(物理主義)を捨て去ろうとするのは意識のハードプ…

チャーマーズの論文を読んで現代的な汎心論を自分なりにまとめる

私は長らく心の哲学に関心を持ってきたが、元々の問題意識(認知科学の科学性への疑問)がそれなりに解消したのと、最近の哲学者の多くが素朴な科学主義に陥っているように見えること*1などから最近は心の哲学への興味が失われていっていた。それがたまたまネ…

ブランダム「ヘーゲルにおけるプラグマティスト的主題」第一節を読む

「ネオ・プラグマティズムとは何か-ポスト分析哲学の新展開-」を読んで以来、ブランダムの哲学にすっかり興味を持ってしまった。アマゾンのレビューにも書いたように「ネオ・プラグマティズムとは何か」という本に対する私の評価は微妙(悪い本ではないが問…

認識論的な整合主義を擁護できる形に整えてみる

分析的な認識論にはよく議論される論点が幾つかあって、内在主義vs外在主義や基礎づけ主義vs整合主義といった説の対立が争点になる。これらの説の内で、内在主義の立場は外在主義以外の説と一緒にできるので、基礎づけ主義と外在主義と整合主義の三つが認識…

現代存在論についての徒然(トロープと基体説の巻)

「『現代存在論入門』のためのスケッチ(第三部)」はお勧めできる論文ですが… 倉田剛の「現代存在論入門」の草稿は既に第二部までは興味深く読ませてもらっていたけれど、第三部がネットで手に入るのをつい最近知って早速読んでみた。第三部の話題はトロープ…

ソータル(sortal)について自力で考えてみる(正確な定義は自分で調べましょう!)

ネット上でソータル(sortal)という用語を見かけることが何度かあって、自分はこれについて何も知らなかったのだが、書かれていることから何となく普遍に該当しなくて分類できるもの程度に認識していた。つい最近調べ物をしていたらスタンフォード哲学百科の…

非概念的内容から概念的内容を合理的に再構成してみる試み(ただしまだ途上)

マクダウェルは感覚データと非概念的内容を安易に同一視しているが、これ以外にもマクダウェルは都合のいい理解をしている所がある。例えばセラーズの有名な論文「経験論と心の哲学」の最終章の知覚の議論を思いっきり無視したご都合主義が伺える。ローティ…

感覚データと非概念的内容は同じなのか問題(または想像力は知覚と思考を結ぶのか?)

マクダウェルの哲学説に関しては前々から疑問に思っていたことがあった。私自身は感覚データと非概念的内容って違うんじゃないかと思っていたのだが、翻訳された「心と世界」を読んでもその疑問はあまり直接には解消されなかった。理由は簡単で「心と世界」…

翻訳されたマクダウェル「心と世界」の解説について(または二つの異なるrealism)

マクダウェルの主著である「心と世界」の日本語訳がやっと出版され、翻訳の出来も良好で喜ばしい限りである。この翻訳には神崎繁による力のこもった解説も付いていてとても参考になるのだが、残念なことに突っ込みどころのあるところが所々見られる。その中…