そもそも日本の政治家は問題が解決することを望んでいない

日本の政治家はヒステリーである。ヒステリーとは病名である。しかし、ここで問題にしているのは病気としてのヒステリーではない。性格類型としてのヒステリーである。精神の病を性格類型に応用することは、クレッチマーを始めとして多く行われている。例えば、精神分析ラカンは社会に生きる通常の人はみな神経症だという。この論では、こうした性格類型として精神の病を用いることにする。
なぜか日本の論者はヒステリーなどの神経症をうまく理解していないように思う。木村敏中井久夫などの精神科医はどちらかというと精神病*1を扱うのが得意である。本来は神経症*2を扱うのが得意な精神分析の領域でも、日本ではエディプス・コンプレックスなどはよく扱われるが、神経症の話はあまり見ない(著者の印象だが)。日本の戦後はヒステリー者によって作られたと言っても極端な話ではない気もするのだが。あまりに近くにありすぎるとかえって気がつかないのだろうか。
ヒステリーとは何か。病としては心理的障害の身体症状への転換だが、この論では性格類型としてみたい。ここでは、ラカン精神分析論者のジジェクの定義を借りてこよう。ジジェクによれば、ヒステリーとは「自分の欲望が実現されるのを望まない者」である。人は生きるために欲望を必要とする。ヒステリーにとっては、その欲望が失われると生きていくことができなくなる。だから、一方で欲望に駆られながら、他方ではその欲望が実現されるのは望んでいない。実現したら欲望は失われるから。ヒステリー者の生はこうして可能になる。ちなみに、病としての定義も、心理的障害を身体症状にすることで目的の実現を阻害すると考えられる。
さて、本題である。言いたい事とはただ一つ。この論考のタイトル通り、「そもそも日本の政治家は問題が解決することを望んでいない」ということである。日本の政治は茶番だと言われることがある。その通りである。なぜなら、日本の政治家にとって政治とは生きるための欲望だからである。
さて、ここで整理しておこう。人は生活を営むにはやらなくてはいけない事がある。学校に行くとか、お金を稼ぐとか、ものを食べるとか。そうした日常生活を送るためには、人は日常的理解(言語的理解)と必要とする。例えば、スーパーに売っているものを「実は食べれないのでは」と疑う人はいない。私達はある特定の理解によって当たり前に物事を見る。しかし、そうした当たり前の理解だけでは人は生きることに駆られない。だから人は人生に直接は必要ない剰余(ムダ)を必要とする。趣味とか恋愛とかそうした人生の剰余への欲望があって、初めて人は生きることに駆られるのである。
日本の政治家にとっての欲望とは政治そのものである。本来は政治は社会の必要事項のはずである。でも、そんなに重要な決定ばかりしているようには見えない(偏見?)。じゃあ普段は政治家はどうしているのか。そりゃ政治活動をしているはずだ。しかし、私に言わせれば、ほとんどの政治活動はあってもなくてもよい剰余である。彼らにとって政治活動とは生活に必要なルーティン・ワークではなく、生きるための欲望そのものである。本来、政治活動とは問題を解決することのはずである。しかし、問題が解決されることは少ない。なぜなら、彼らはそれを望んでいないからだ。もちろん、本人にそういったら強く否定されるだろう。その願望は無意識のものだ。もし問題が解決されてしまったら、彼らは何もすることがなくなってしまい、彼らそのものがムダになってしまう。それを防ぐためにも、政治は茶番である、つまり何の進展もない、必要がある。それこそが彼らの望んでいることである。
それにしてもなぜ、日本の政治家はヒステリー者ばかりなのか。第一に選挙のせいだろう。日本の政治家は一度なったら、転職するなんてあまり聞かない。一度なった政治家はほぼ生涯、政治家だろう。世襲政治家も多いし。となると、毎回選挙に勝つことが目的となる。選挙制度ほどヒステリーに都合のいい制度はない。たとえ当選しても、数年後にはまた選挙しなくてはいけない。そう、政治家でありたいという欲望はいつまでも遅延される。というわけで、彼らは政治活動と称して自らの欲望をかなえ続けるのである。第二に、(少なくとも戦後では)日本の社会には政治はさして必要ではないことだ。実のところ普段の日本の社会は政治などなくても回っていける。共同体が成立しにくくなっているとはいえ、民間がまだ世間を回しているし、企業がお金を回すし、官僚制もそれなりに役割を果たしてるし。政治はよほどの緊急時しか必要でない。実のところ政治家は人形であるべきだ。普段は放っといて、必要になれば呼び出す。政治家は無能なほどよい。その方がうまく利用できるからだ。この普通なら嫌がりそうな役割に乗ってくるのがヒステリーである。彼らはこうして、持て余していた欲望を政治に転写するのである。
日本の政治家の多くはヒステリーである。しかし、全員かと言えば違うだろう。特に汚職までするような大物政治家とかは別の話だ。そうした政治家こそが、政治と言う表向きの茶番を隠れ蓑に、裏で何かしているような。私の勝手な想像だが。

*1:今で言う統合失調症、元は精神分裂病のこと、名称がややこしいので、上位カテゴリーである精神病で統一する。ここでは困らない。

*2:ヒステリーや強迫神経症など