心理学に理論が必要なわけ

認知言語学の構文法の考え方はこうだ。普遍文法的には、どんな動詞が文で使われていようと、その文は能動態にも受動態にも自由に変換できるはずだ。しかし、実際の使用では、文法的にはどちらも可能なはずなのに受身でしか使われない動詞があったりする。構文法はこの現象をプロトタイプから説明する(…悪いが省略)。トマセロはこのような言葉がどのように使われるかに注目する考え方に目をつけたようだ。別に認知言語学を直接に証明したわけではない。とはいえ、普遍文法だって別に直接に証明できるわけじゃないが。
だいたい心理学的な実証研究で言語学の理論を証明できるわけがない。扱っているレベルが違う。ぜいぜい間接的な証拠が出せればいいほうだ。だから言ってる事がバラバラになるのも避けられない。だからといって心理学に言語学の理論が必要ないわけではない。心理学の実証研究は放っておくと、次から次へと多様で雑多な成果が現われてきて混乱のきわみに陥り、結局残るのは(ピグマリオン効果やタイプAに匹敵する)都合のいい心理学神話ばかりってことにもなりかねない(以前紹介した「フロイト先生のウソISBN:4167651300)。だから心理学には理論が必要だし、たとえそれが直接の実証は出来ない言語学の理論であってもないよりはましだ。それによって成果の整理や目標設定が可能にはなる。