プロトタイプについて

リンク元からたどったらこんな記事がありました。「完璧な鳥」は存在するか。 http://d.hatena.ne.jp/tihara/20060524#p1です。一応私が質問に答えられるので答えておきましょう(コメント欄がないのでトラックバックで。内容の正否は自分でご確認のほどを。もし間違っていても私は責任を負えません。ちなみに手元には文献なしなので記憶で書いてます)
プロトタイプといったら認知心理学の用語であって、それが認知言語学(この場合は認知意味論)に影響しています。前回の記事で触れた構文法のプロトタイプは上記の記事で言及されているプロトタイプとはまた別です。基本的な説明はウィキペディにあるこの説明でいいですよね(プロトタイプ理論 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E7%90%86%E8%AB%96。)。
プロトタイプを理解するコツはこれがカテゴリー論であるということ、元は心理学実験から提唱されていろいろな領域に拡大したこと、です。プロトタイプを提唱したのは心理学者エレノア・ロッシュなのですが、それ以前のカテゴリー論は情報処理アプローチによるものでした。心理学におけるカテゴリー論とは、「りんご」とか「レモン」とか「すいか」などの事物を「果物」や「野菜」などのカテゴリーに分けるときのその分け方に関する議論です。実際の心理学実験ではカードを使って分類してもらったりします。典型的な情報処理アプローチでは共通の性質(例えば「甘い」)によって分けていると考えていました。それに対してロッシュは色の分類課題の研究から人にはカテゴリー分類をする上で中心(典型)となる事物があると気づいたのです。これがプロトタイプです(さらにウィトゲンシュタインの家族的類似性も関わりますが省略)
ここでid:tiharaさんの質問に戻ります。まず、1.「鳥らしさ」という尺度は、我々の中に存在するのでしょうか? という質問。これはワークショップで答えられた生成文法研究者の方の答えが妥当です。もともとは心理学実験の成果から始まり他の分野に応用されたことがミソです。前者に関連させると「IQは存在するか」という質問と同じように不毛だ。なぜなら実験や質問紙で計ったのがIQであり(操作的定義)、それが実際に人の中にあるのかというのは意味のない質問だからだ。もちろんIQについてそれ(操作的定義)以上のことを語ることもありえるが、その場合は理論や解釈に関わる(プロトタイプは理論的だ)。後者に関連させると、そもそもが他分野への理論的な応用なので存在云々は不毛な質問。それ自体が実証的な(言語学的)証拠によって調べられる必要がある。
次に2.「完璧な鳥」も存在するのでしょうか?の質問ですが、それも不毛な質問だ、が妥当な考え方。心理学実験では実際に分類させたり各項目をどれぐらい鳥らしいかを質問紙で答えさせたりして調べるので、実際にプロトタイプを想像してるかは分からない。というか、理論的にプロトタイプはそういう考え方をしない。実際の事物に対して典型性が与えられるのが基本であり、想像された完璧な事物とは関係がない(質問に答えた認知言語学者は不勉強)。
ちなみに、プロトタイプについてなら「身体化された心」ISBN:4875023545(たぶん)による言及があります、参考までに。