人類学と認知言語学との幸福な結びつき

Edwin Hutchins (in press) Material Anchors for Conceptual Blends http://hci.ucsd.edu/hutchins/vitae/Publication-links.htm
Fauconnier, Gilles and Mark Turner. to appear.“Rethinking Metaphor.” http://cogsci.ucsd.edu/~faucon/publications.html
CONCEPTUAL INTEGRATION Gilles Fauconnier (PDF) http://www.ifi.unizh.ch/ailab/people/lunga/Conferences/EDEC2/invited/FauconnierGilles.pdfここに人類学と認知言語学との結びつきを報告できるのをうれしく思います。心理学と認知言語学とについてはすでにトマセロと構文文法とのつながりが日本でも知られるようになってきている。しかし、ハッチンスとメンタルスペース理論が結びつくなど思いも寄らなかった。私はどちらかと言うと思考や談話を扱う方に興味があったので、私にとってはこんなに面白いものはない。
古典的人工知能やフランス構造主義は言語や記号の世界の中にすべてを閉じ込めて説明しようと言う試みだった。まぁ、言説分析はもともと主な資料が文献しかない過去の歴史を分析するための方法だったのだし、人工知能はコンピュータ上で人の知能や言語能力を再現しようとする科学的な試みだったし、認知科学のコンピュータ・メタファによる情報処理的アプローチも似たような事情だった。そうした方法論の問題がいつの間にか過大に一般化されて、すべては言語の中に/コンピュータの中/頭の中に見出すことが出来るという傲慢な考え方へと発展してしまった。しかし、それが批判されて以降は自然主義化が進んでいたのだが、これもまた勘違いが出てきて、何でも脳科学で/進化論で解決、とかそういう安易な考え方が目に付くようになってしまった。しかし、認知科学の内部では地味に考察が進んでいた。その成果の一つがConceptual blending theoryである。
考え方の基本は、言語(概念)の世界は認めるがそれだけではなく、現実(物質)の世界との対応付けによって働くとする。例えば、学校では「一時間目は理科で、次の時間は算数だ」とか「休み時間は外で遊そぼう」とか「チャイムが鳴ったら教室に戻ろう」とかいう言葉が成り立つのは、学校では一定の時間にチャイムが鳴りそれぞれの教室が区切られているという空間的-時間的な構造を持っているからである。生徒は、一時間目、二時間目…と時間を対応付け(マッピング)しそれに合わせて空間的に対応付けられた教室へ/から移動したりする。つまり、生徒は概念的構造と物質的構造を対応付けており、さらにその対応付けが生徒間で調整されているのだ。実際にはメンタルスペースだの事象構造だのメタファーによる拡張だののややこしい理論的な話があるのだが、基本的な考え方はこんなもんだ。面倒(または面白い)なのは実際の分析の方だ(地味な対応付けと拡張が延々と続く)。ちなみに、これはあくまでもともと言語学の理論なので行為論は含まれていない(それは別にどっかで探すしかない)。
おそらくこれが、日本ではろくに紹介されていない新しい理論的な話の私による唯一の紹介となるだろう。私は最新成果を追う気はあまりないし、他に私こそが分かる話と言うのもなさそうだ。今後こんなのを期待しないように。

The Way We Think: Conceptual Blending And The Mind's Hidden Complexities

The Way We Think: Conceptual Blending And The Mind's Hidden Complexities


Conceptual blending theoryについて詳しく書かれている本。もちろん私は読んでません。アメリカのアマゾンじゃドイツの人が星三つなのに内容はベタ褒めのレビューを書いている(星が少ないのは学術的過ぎるから?)。ちなみに、著者のフォコニエはフランスの人。というか、メンタルスペース理論さえよく知らないのに上の論文を読めた自分って何?
Cognition in the Wild (A Bradford Book)

Cognition in the Wild (A Bradford Book)


私が唯一通読した洋書。日本では心理学者のようにろくに理解されないか(社会科学の素養を持ちましょう)、または理解出来そうな人(人類学者や社会学者)はそもそも知ってさえいない、という不幸な著作。アメリカじゃ大絶賛なのに(私もお薦めだ)。

追記(06/7/24)

後から手に入れた洋書"The way we think"ISBN:0465087868、上で書いたようなことは関係がなかった。というわけで、この記事はConceptual blending theoryの情報としては当てにしないでください。関係あるのは時間の空間メタファーぐらいですかね(しかもメンタルスペースである必要ないし)。まあ、道具の話を強引に建物としての校舎に当てはめる手も無きにしも非ずだが(しかし生徒間での相互調整の話は一切なし。"The way we think"は思考に関する本です。ただし、この話はアイデアとしてはありだと思うが)。