言語進化:科学の最も難しい問題?(3)

Part 2の続き

7章で、ディーコンは言語進化の中心には複雑なシンボル的コミュニケーションのための人の能力があるとする。しかしながら、トマセロとは対照的に、ディーコンは世界中の言語を通して(つまり言語普遍に)見られる言語構造の多くのサブパターンは文化的過程の産物ではないとしている上に、ビッカートンやピンカーが提案している進化した生得能力(いわゆる言語の「普遍文法」)を反映しているわけでもないと言う。代わりに、哲学や意味論(シンボルシステム)での研究から、ディーコンは言語学的シンボルシステムそのものに由来する第三の制約があると論じている。言葉をそれで言及しているものとの間の複雑な関係のために、言葉を句や文に形作るときにシンボルシステム内で意味論的制約が生じているそうだ。比較対象としてディーコンは数学を取り上げている。分割の数学的概念はすでに何万年もあるが、人が分割を発明したと言うのは間違っているようだ。むしろ私たちが概念を発見したのだ。実際に、分割のような数学的概念は宇宙にどこにいようと普遍である。例を挙げると、地球外知性の研究(SETI)プロジェクトでは、異星人に(自然な宇宙からの情報ではなく)知的な存在が生み出した信号であるとすぐに認めてもらえるように、素数を数える振動を送り出していると指摘する。同じように、言語進化を通じて人間は普遍的な意味論的制約を発見したのだとディーコンは提案する。こうした制約は人間の言語だけでなく、地球上か地球外かに関わらずその自然によっていかなるシンボル的コミュニケーションのシステムをも支配している。
8章でイエイン・ディヴィトソンも人のシンボル使用に焦点を当てているが、これを考古学の視点から描き出している。骨格の解剖学的証拠から言語進化の理解に貢献することはほとんどされていないままである、なぜなら化石化した骨から可能な言語学的行動を定めるのは困難だからである。代わりに、ディヴィトソンは人工物の考古学的記録を示しているが、それらはそれを作り出した行動について何かしらを明かしているからだ。特に、古代芸術品の分析は少なくとも7万年前にさかのぼるシンボル使用の証拠を提出している。ディヴィトソンにとって、これらの人工物は言語の二つの重要な特徴、制限のない生産性と時や場所で変わらない事物を表わすシンボルを使用する能力、と合致する洗練されたシンボル使用を示している。他方で、彼は考古学的記録によっては統語の証拠が残されにくいことを指摘している。他の多くの人たちのようにディヴィトソンは、考えを表わす統語や文法化を含む学習過程や世代を超えて繰り返される学習を伴う現代の人間言語への重要な段階としてシンボル使用を見ている(3章や6章も参照)。
これまでの章は人間に特有のシンボル使用に焦点が当てられた、9章では、ハウザーとフィッチは言語進化への生物学者の視点を取り上げて、人間の言語能力を作り上げた様々なほかの要素を探るための(動物との)比較的方法を提唱している。(特に人間以外の霊長類の)動物研究こそが言語のどの要素が人間に独自であるかやどこが他の種と共有であるかを定められる唯一の方法だと言う(6章のトマセロも似た視点)。ハウザーとフィッチは話し言葉の産出と知覚に横たわるメカニズムに関するデータの数々を概観する。音声の産出では、おそらく個々の音単位(音素やシラブル)をより大きな単位(語や句)に組み合わせる力強い能力の他には、人間に独自な点はほとんどないという。話し言葉の知覚では、他の哺乳類とも共有のメカニズムがあるとする証拠がある。さらに、ハウザーとフィッチは現在の人間の話し言葉の産出と知覚にあるメカニズムはそれが現在持つ目的のために進化したのではないとする。むしろ、人間とチンパンジーに共通の祖先にあった他のコミュニケーション的または認知的な機能のために進化したのだと。しかしながら、ハウザーとフィッチはビッカートンと同様に、人間と人以外の動物の間の基本的違いは、語のような言語の単位を作り意味のある表現を様々に際限なく生み出すためにそれを組み合わせる、再帰的な統語使用の能力にあるとしている。

  • (翻訳はここまで。この後、模倣説やジェスチャー説などの紹介が続く)