認知科学に潜む近代哲学史

哲学史において成されたことは認知科学においても繰り返された、と言われることがある。哲学史と言ってもどこまでさかのぼるかなどで全然違うが、少なくともカント以降の主要な哲学の流れ(いわゆる近代的エピステーメー)が認知科学の中に含まれているのは確かだ。
カントの先験哲学(または超越論哲学)の考え方が認知科学に含まれていることは改めて言うまでもない。人の認識の生得的な制約はカントの先験性の考え方そのものだし、それを指摘する学者も多い。しかし、これは認知革命の始まりにすぎない。認知科学のすごいところはカント以降の重要な流れが大雑把に網羅されていることだ。例えば、進化心理学ダーウィン(またはニーチェ)、文化心理学マルクス(またはヘーゲル)、身体性科学はハイデガー(またはメルロ=ポンティ)。詳しい説明は省くが、要するに認知科学を一通り学ぶことは近代哲学史を一通り学ぶことに近い。ただし、近代哲学史の知識がないと、認知科学の各種理論の価値が本当のところはよく分からない可能性が高いので、代替になるとはあまり言えそうにないが。