C.S.パースにとってのスコラ哲学と科学的精神

この点に関して、論理学や科学基礎論の分野で先駆者的な業績をあげたC・S・パース(1839〜1914)の観察は、ひとの意表を突くものであると同時に、極めて適切である。ドゥンス・スコートゥスの著作に親しみ、みずからの哲学的立場を「スコラ的実念論」と称した、この天才的科学者によると、スコラ学者たちを駆り立てた学問的精神や動機は、現代の科学者たちのそれとまったく同じものである。
すなわち彼は、ある理論あるいは仮説を立てた上で、それをあらゆる問題、そしてあらゆる問題のあらゆる側面に適用することによって、その妥当性を確かめようとしたのであって、こうした努力があのような数多くの重厚な書物を次々と生み出すことになった。それにくらべると、現代の哲学者たちの研究態度は概して独断的で、非科学的極まる、とパースは酷評する。

注:スコラ哲学の用語として、実念論という訳語は誤解を招くので、最近は素直に実在論と訳されることの方が多いです。また、パースの言う現代の哲学者たちとはもちろん当時の哲学者のことで、当時は現象学分析哲学もまだ知られてなかったことに注意。