行動経済学の成果で他人を出し向けるか?

  • 但し書き:以下の文章は気に入らないところを多少含むのですが、直せそうもないのでもったいないので出しちゃいます。適当に割り引いて読んでください。

最近読んだある本で、市場を出しぬくことはまずできない(できたらそれはインサイダーだ)とあった。これは経済学の考え方から導けるものだが、これを行動経済学を投資に都合よく利用できると考えている人に当てはめることができる。(誰でも知ることができる)行動経済学の成果によって他人の投資行動を見通して出し抜くことができるとしたら、他の人も同じことをするに決まっているので結果として出す抜くことはできない。行動経済学で儲けようとするなんて、市場の効率性(都合のいい情報は価格に反映されるに決まっている)から考えてもありそうにないが、しかしそもそもにおいて心理学的に考えても儲けるのは難しい。実際には、学習の転移が困難なこと*1などから無意識的な認識過程を変えることはそうはできるわけではないので、優れた直観*2の働く熟達した投資家でない限り他の人と同じ行動をとる可能性の方が高い(つまり他人を出し抜くことができない)*3。つまり、行動経済学*4確実な成果を甘く見るなということだ。ただし行動経済学でも確実でない成果も多くあるが、それはたいてい社会的な要因によるものだ(というかむしろその場合は社会心理学に近い)。
先物取引などが儲かる仕組みであるリスクオプションは確かに行動経済学における心理的に生じる時間的割引説(または不確実性の回避)によって説明できるが、それはあくまで外からの説明であって、リスクオプションそのものは市場が勝手に計算してくれるものだ(または勝手に値が安定すると言い換えてもよい)。個人レベル*5では行動経済学はそう都合よく役に立つものではないし(そんなものを知らないで相手を騙して詐欺をやってる奴はいくらでもいる)、おかしな期待はお門違いだ。

  • 参考サイト

行動経済学は政策に役立つか(PDF)
http://econon.cun.jp/abef/doc/panel_discussion_081220.pdf

*1:つまり実験室で生じた結果が現実のどのような場面で生じるかが分かって自分で直せるわけではない

*2:この場合、直観とはつまり無意識的に行われる判断のことになる。ただし、優れた投資家にそうした直観が本当に備わっているかはここでは問わない。儲かる投資とは統計学的に見られる単なる偶然に過ぎないという意見もある

*3:優れた直観のない一般の投資家からすると、行動経済学は陥りやすい正しい投資法からの逸脱(例えば手元の株への執着)を教えてくれはするが、正しい投資法そのものを教えてくれるわけではない

*4:もちろん正確に言えばあくまで比較的に確実だが、一般化できる認められている研究成果は大体定まっている

*5:ただし、Sunstein&Thalerで話題になっているような政策レベルなどは別の話。ちなみに、環境設計の考え方はハーバート・サイモンやノーマンから続く認知科学では十八番の議論で(政治的含意を除けば)目新しい話でもない。それから、ドゥルーズ的な環境管理とは安易には一緒にしてほしくないと思うが、認知科学における自由の位置づけについては以前書いた認知科学の基礎の話における科学的構造主義への言及も参照