エリザベス・スペルクによるジャン-ニコ講義2009概要(翻訳)

原文
ELIZABETH SPELKE Sources of Human Knowledge
http://www.institutnicod.org/lectures2009_outline.htm

エリザベス・スペルク「人の知識の源泉」(講義概要)

講義1:人の思考の認知科学へ:なぜこんなにも遅いのか

プラトンの時代以降、物理学や生物学の現象への理解は、人の知覚や活動の理解と同様に、科学者によって大変革をもたらされた。これとは対照的に、人の高次認知への理解は、現代の研究者が古代の資料から真面目に引用できるものからほとんど進んでいない。この講義では、なぜ人の心のもっとも重要な側面が科学的な分析に抗しているのかを考え、その抵抗を乗り越えるための戦略を述べたい。中心的な戦略は二つの提案にある。まず、人の認知は核となる少数の知識システムの元に築かれていること:そのシステムは奥行きの知覚や物に手を伸ばすためのシステムのように学ばれる余地があるものである。次に、新しい認知能力と知識システムはこれらの核となるシステムを生産的に組み合わることによって発展していく:組み合わされる過程は自然言語のような人の種に特殊な能力に依存している。生きていない操作できる対象と生きた目的を持った活動との表象のための二つの核となるシステムに関する研究を描き出すことで戦略を提示します。さらに、それらのシステムが組み合わされることで生ずる人間に特有な能力―特定の機能によって構造を持たされた物である人工物を表現する能力―を考察します。

講義2;自然数

自然数概念のシステムは二つの驚くべき特徴を持つ。極めてシンプルであること、生きた世界では極めて稀であること。生きとし生けるものは探索し自らの時を組み立て社会的世界を導くために量に敏感でないといけないが、人だけが正確に数えられる値を表現し、繰り返し数える過程でその値を定め操る。人間以外の動物や人の幼児や様々な文化の大人の研究から、この能力は人が他の動物と共有する二つの核となるシステムに依存しているという証拠が出された:そのシステムとは、個々物を同時に表現するためのシステムとおおよその数的な大きさを表わすためのシステムである。動物と幼児ではこれらのシステムは互いに関係してないが、それらは子供が数字と数え方を学ぶように生産的に組み合わせられる。離れた文化の大人や慣習的な言語入力が欠けた大人の研究から、言語が自然数概念の構築で中心的役割を果たしているという証拠が出た。子供と大人への更なる研究から、私たちの成熟した自然数概念の基盤に言語や核となる数システムが一緒に残っていると分かった。

講義3;自然幾何学

ソクラテスからカントにいたる哲学者はユークリッド幾何学を生得的な知識システムの典型例であると見なしていた。この見方に対して、蟻から人にいたる動物研究では、生物学的な有機体は周りの世界にある形を表わすための多様なシステムを持っていると分かった。その各々は適用範囲が限られており、ユークリッド幾何学にある完全な力はなかった。にもかかわらず、人はそうしたシステムの限界を超えて行き、さらに抽象的で一般的な幾何学の表象を作り上げる。これらの表象は絵画やモデル、特に幾何学的な地図に、反映されている。地図やその他の空間的シンボルを用い使いこなすことで、子供は自然数を引き起こす過程とは異なる過程を通して自然幾何学を構築する。しかし、どのように子供はそれらのシンボルを理解するようになるのだろうか。最近の研究は地図の理解は言語の獲得に依存していると示している。

講義4:何が人を賢くするのか?社会的認知、自然言語、人の特有性

人は霊長類である、その知覚し活動するシステムは他の動物とかなり似通っているが だが人だけに発達した新しい知識システムがあり それによって祖先が直面したことのないような問題を解ける。人の認知の柔軟性と生産性を説明する人間と他の動物との生得的な違いは何か。最近のトマセロの提案によると、人は特有な発達の経路をたどるが、人間に備わる重要な特徴は、認知的ではなく動機的である。人は情報や課題や目的や感情的状態を共有する生得的な傾向を持っている。すべての人の認知的成果は、自然言語の獲得を含めて、この傾向から発達した。トマセロの提案は、これを逆にした対抗する提案と関連があると私は思う。自然数や自然幾何学のように、様々な動物と共有する核となるシステムに対してさらに共有された志向性が付け加えられたのではないかと思われる。この場合、目的に向けられた行為者(actors)と社会的な仲間を表わす二つの別のシステム 人に特有のコミュニケーションと協力の形式が、これらの核となるシステムを生産的に組み合わせる独特な能力から出現した。そしてまた、言語はこの能力の源であるだろう。