最近までの道徳についての哲学的・科学的な議論をまとめた最良の一般書「太った男を殺しますか?」

太った男を殺しますか? (atプラス叢書11)」は、有名になったサンデルの授業でも取り上げられていたトロリー問題(トロッコ問題)を主題にしながら、最近までの道徳に関する学問的議論(哲学や科学)をまとめた一般向けの著作としてよく出来ている。近年の道徳心理学に関する本は今までも多少は訳されていたが、(これまではあまり触れられることの少なかった)道徳文法や実験哲学も含めてここまで包括的に分かりやすく語った著作はなかったので是非お勧めします。あまりのよく出来た著作(特に科学書)には往々にしてあるのだが、私には特にこの本について語るほどの事は特にないので、とりあえずお勧めだけしておきます。
翻訳上の問題は別にすれば不満が少ないが、あえて指摘すると導入部分でトロリー問題についてもっと丁寧に説明したほうが良かったと思う。翻訳上の問題も色々ある*1が、全体としては読みやすく訳されているのでそこは良しとしたい。ちなみに、(これが哲学書であると同時に科学書でもあることが分からないのは仕方ないとして)タイトルはほぼ原題通りだが副題のrigth and wrongが訳されていないせいで、これが道徳に関する本だと言う事が一目では分かりにくいのはちょっと失敗かな?

太った男を殺しますか? (atプラス叢書11)

太った男を殺しますか? (atプラス叢書11)

*1:解説がなぜこの人に?と思う無益なものだが、本文が読みやすいのでこれは別にいらない。一番ひどいのは(注で参照されてるのに)文献表が省略されていること。せめてネット公開ぐらいしてくれ。結果主義は帰結主義の方が定訳だとは思うが、訳語の問題はこの本に限った問題でもないのでこれ以上は突っ込まない