法学者サンスティーンが参照する科学的心理学の成果を確認する

法学者サンスティーンは科学的心理学の成果に基づいた議論で著名な学者であるが、欧米での評価の割には日本ではそこまで知られていない学者でもある。
比較的最近の話題だと行動経済学者セイラーとの共著「ナッジ」(邦題「実践 行動経済学」)が有名があるが、これも(認知科学的な成果と言える)二重過程説に基づいた作品だ。うまく環境を設計して潜在過程に働きかけることで、意識上の自由は確保した上で行動に介入する事を目指すリバタリアンパターナリズムを提唱することで知られるようになった。ネットにある論文だと「リバタリアン・パターナリズムとその10 年」(PDF)が最近の展開も分かってお勧めだ。最近になってからのサンスティーン自身によるナッジへの批判的反省は「Nudges That Fail」を参照。
しかし、それ以前のサンスティーンだと熟議民主主義批判(およびインターネット批判)が知られていたが、これも社会心理学の成果に基づいていた。それはGroup Polarizationであり社会心理学では有名な説なのだが、例えば「熟議が壊れるとき: 民主政と憲法解釈の統治理論」では訳が特殊(集団極端化)で、これがきちんと分かっていない気がする。社会心理学ではGroup Polarizationの定訳は集団成極化または集団分極化であり、集団での決定は個人での決定の時よりも極端な結論に導かれがちだという社会心理学の実験成果があるのだ。ネットにはなかなかいい説明サイトが見つからないのだが、古いものでよいなら「集団分極化とその説明理論について」(PDF)が詳しい。
以上、私にとっては既に当たり前の知識だけれど、(行政と同様で学問も縦割りで)分野間の断絶の激しい日本ではこの程度でも知られているとは言い難いので確認してみました。