認知バイアス用語集が便利な事典項目

私が最近に認知科学について興味を持っている内容が、一般向けにはマニアックすぎて書くのを躊躇している。そんな内容を書けないならこんなブログ続ける動機などないのだが、とりあえず比較的どうでもいい軽い話題でしのごうかと思う。

最新版 事典の認知バイアスの項目

認知科学については定期的にインターネットで調べ物をしている。その中で、今年の1月にプレプリント(事前公開)が出たばかりの事典の項目を見つけた。

google:Cognitive biases Section to be published in the Encyclopedia of Behavioral Neuroscience (Hans)Korteling Alexander Toet

これは認知バイアスの項目なのだが、正直なところ項目の解説内容はあまり大したことない。

その認知バイアスの項目の解説文は、いまさらの進化心理学の勧めみたいな内容で、感心するほどの中身はない。通常の心理学的な説明をくさして、進化的な説明を翼賛するという流れになってる。その至近要因と究極要因を比較して後者を褒めるという、進化心理学のブーム時によく見かけた不毛な形式を未だに繰り返してるだけで読む価値があると思えない。

項目の解説文はくだらないが、この文書におまけでつけられているGlossaryが、認知バイアスの用語集としてとても便利。私はやる気ないが、誰かこれをすべて訳して公開しておけばもっと便利なのに…とさえ思った。

で…まぁ、ちょっとだけ自分で訳して紹介してみます。

認知バイアス用語集からの翻訳

まずはこの前の記事で取り上げた認知バイアスから始めよう

内集団バイアス

他のグループよりも自分が属するグループを好む傾向

Ingroup bias: the tendency to favor one’s own group above that of others (Taylor and Doria, 1981).

訳してみると、認知バイアスを示す実験の説明(ランダムにグループ分けしても効果が出る)がなくてものすごく物足りない。とはいえ、全ての用語に必ずし最低一つの文献が参照されてるのは便利。これで元の文献に遡って調べられる。項目の解説文では褒める気が起きないけど、この点では著者達を褒めておきたい。

次は、認知バイアスの中でも断トツによく見る用語

確証バイアス

自らの先入見や視点や期待を確認するような情報を選び解釈し注目し記憶する傾向

Confirmation bias: the tendency to select, interpret, focus on and remember information in a way that confirms one's preconceptions, views, and expectations (Nickerson, 1998).

まぁ、よく聞く認知バイアスだよね。ただ、これを他人を非難するのに安易に使っちゃ駄目ね…あなたにもこれは当てはまります。それって実はこんなバイアスかも…

自己中心バイアス

自分の見方に激しくこだわり、他者の視点から状況を捉えられない傾向

Ego-centric bias: the tendency to rely too heavily on one's own point of view and to fail to consider situations from other people's perspectives (Moore and Kim, 2003).

こういう自分の見解にこだわってなんとか正当化しようとする傾向を、Dan Sperber&Hugo Mercierはマイサイドバイアスと呼んで、進化的な適応性を主張している。マイサイドバイアス説にある、人は相手に向かって正当化する動物だとするところは、哲学者のブランダムの説も思わせて興味深い。これまで紹介したのはこの種の認知バイアスとして分類できるかもしれない。

あと、最近聞くことが増えてきた認知バイアスもある

正常性バイアス

災害やそのありうる帰結が起こりうる可能性を低く見積って、物事は通常通りに働いているはずと信じる傾向

Normalcy bias: the tendency to underestimate both the likelihood of a disaster and its possible consequences, and to believe that things will always function the way they normally function (Drabek, 2012).

ただ認知バイアスは全ての人に当てはまるので、認知バイアスを理由に他人を非難(欠点として説明)するのはやめましょう。1俺は正常性バイアスにハマってないけどお前は正常性バイアスにハマっている…と非難しあうことに意義はありません。素直に今がどう緊急事態なのかを説得しましょう。

他にも、アンカリングとかフレーミング効果とか基準率の無視とかは、行動経済学の本では認知バイアスとしてよく紹介されている。用語集の中にもあるので興味のある人は確認してみてください。

私もよく知らない認知バイアスも用語集にあるが、責任を持っては紹介できないので自分で見てみてください。

あとがき

自分にとって発見のない記事は書くのがキツイことが多いが、この記事は楽ちんに書けてよかった。事典項目とは直接関係のないマイサイドバイアスに触れられたので、少しは書いた甲斐もあったかな。ただ認知バイアスについては認知のベイスモデルとの関連(バイアスを合理性とどう擦り合わせるか?)とか、とってある話題もまだあるが、書くかは分からない。


  1. 正常性バイアスについては、ラジオでなぜコロナ渦の中でもパチンコに行くのかを説明するのに臨床心理学者が語っていて、私は違和感を感じた。理由は記事で触れたが、他に性格(例えばビック5モデル)による説明でも駄目論と組み合わせて独立で記事を書こうともしたが、もうこれを書いたので書かない。要するに、性格や文化で行動を説明しちゃ駄目って話で、性格や文化は行動傾向そのものなので実はトートロジーでしかないのが理由。まぁ、これについては分かってない人が多いので、機会があったらその時は書くかも。