言葉と音楽との関係についての参考文献集

小熊秀雄の詩の朗読を聴いて考え込んでしまった。もともと私は、一方でクラシックの古楽を好んで聴き、もう一方で英詩を入り口にして日本語の詩歌に興味を持った。この2つには結びつきがあるのだが、それは言葉と音楽との関係を媒介としている。宮台真司がよく沖縄の音楽の話をするが、なぜ沖縄の音楽はよいのだろう。もちろん、沖縄の状況や社会的文脈もある。しかし重要なのは、沖縄の音楽は沖縄の言葉と深く結びついていることである。ここからミメーシスの話が生まれる。私のこうした話には裏づけがあってしているのだが、これからするのはそのネタ明かしである。
サピア「言語-ことばの研究序説」ISBN:4003368614
サピアはアメリカの有名な言語学者、とくにサピア=ウォーフ仮説で知られる。そのサピアの書いた言語学の入門書。どの章も興味深いが、ここでのテーマにとって重要なのは、最終章「言語と文学」である。この章では様々な言語の詩を比較している。結論として、どの言語にもその言語なりの長所と短所があるとされる。例えば、英語におけるリズムのよさ、中国語の持つ簡潔さ、など。つまり、文学(特に詩)はその言語の特徴を最大限に生かすべきだとされる。ただ気になるのは、ホイットマンへの評価の低さである。私は小熊秀雄は日本のホイットマンだと思っているので思いは複雑だ。彼こそ日本語の特徴を最大限に生かしたと思うのだが。
ニーチェ悲劇の誕生ISBN:4121600622
ドイツの哲学者ニーチェの処女作。古代ギリシアの悲劇について論じられている。有名なアポロとデュオニュオスの対立はここで描かれている。この著作でニーチェは抒情詩と楽器演奏の結びつきを示し、そこからの音楽が生じたとしている。若いころの著作とはいえ、言葉と音楽の結びつきを見事に示した記念碑的著作であることは確かである。
ベンヤミン「ドイツ悲劇の根源」上ISBN:4480084932/下ISBN:4480084940
ベンヤミンはドイツの有名な思想家で批評家。この著作ではそれまで注目されたことのなかったバロック期のドイツ悲劇を主に扱っている。正直言って、当の本文はかなり難解なのなので、私にもよく理解できていない。しかし、この訳書に付属している論文「近代悲劇とギリシア悲劇」が理解の役に立つ。実はベンヤミンニーチェの悲劇論を愛読していたが、それへの批判からこの著作が生まれたのだ。この論文を読むと、ベンヤミンニーチェとの格闘がかいま見られる。ちなみに、これは、ベンヤミンの評価の低さにもかかわらず、バロックオペラ理解にも役立つ。
ゲオルギアーデス「音楽と言語」ISBN:4061591088
題名も見ての通り、そのものズバリの本。ゲオルギアーデスはギリシャ出身のドイツの音楽学者。ミサ曲の歴史を歌詞との関係からたどり、西洋音楽の歴史を考察する。正直言って、クラシックの知識がないと読みづらいが、そこを読み飛ばしても第一級の著作だとは分かると思う。音楽と言語の関係は一つではなく、互いに影響を及ぼしあったことが示されている。この本を読むと、ニーチェベンヤミンの関係も分かりやすくなる。この著作では、バロックと古典派の対立を叙事詩と悲劇の対立に重ね合わせているが、この対立はニーチェベンヤミンの対立にも応用可能である。とはいえ私自身まだ、このことについてはよく整理できてはいないので、これ以上は述べられない。

言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)

言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)

悲劇の誕生 (中公クラシックス)

悲劇の誕生 (中公クラシックス)

ドイツ悲劇の根源〈上〉 (ちくま学芸文庫)

ドイツ悲劇の根源〈上〉 (ちくま学芸文庫)

ドイツ悲劇の根源〈下〉 (ちくま学芸文庫)

ドイツ悲劇の根源〈下〉 (ちくま学芸文庫)

音楽と言語 (講談社学術文庫)

音楽と言語 (講談社学術文庫)