2013-01-01から1年間の記事一覧

ブランダム「ヘーゲルにおけるプラグマティスト的主題」第一節を読む

「ネオ・プラグマティズムとは何か-ポスト分析哲学の新展開-」を読んで以来、ブランダムの哲学にすっかり興味を持ってしまった。アマゾンのレビューにも書いたように「ネオ・プラグマティズムとは何か」という本に対する私の評価は微妙(悪い本ではないが問…

キムリッカ「新版 現代政治理論」

「新版 現代政治理論」 ロールズ以降の現代政治哲学の流れをうまく議論としてまとめている良質な概論書 原題に「現代政治哲学 入門」とある通り、ロールズ以降の政治哲学での重要な議論を分かりやすく解説したよく出来た概論書。功利主義・リベラルな平等主…

イグナティエフ「ニーズ・オブ・ストレンジャーズ」

「ニーズ・オブ・ストレンジャーズ」 政治思想的な背景は一読では分かりにくいが、思想史のエッセイとしては今でも面白い 政治思想家として著名なイグナティエフが、人々の要求(ニーズ)が西洋の歴史上でどのように表現されてきたかを思想史的に探った作品…

アセモグル&ロビンソン「国家はなぜ衰退するのか」(上/下)は傑作だってば

「国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源」 「国家はなぜ衰退するのか(下):権力・繁栄・貧困の起源」 国家繁栄の原因を歴史的分析によって政治や経済の制度のあり方に求めた労作 世界に豊かな国と貧しい国がある理由を政治と経済の制度のあり方…

中畑正志「魂の変容」のレビューへの補足

前回中畑正志「魂の変容」のレビューを出したのだけれど、私の哲学史の知識など所詮は素人レベルでしかないので、あそこで書いたことが正しいかどうか未だに気になっていた。志向性については(チザムやブレンターノはまだしも)古代や中世となると専門家で…

中畑正志「魂の変容」の論文を批判的に検討してみる(修正版)

「魂の変容――心的基礎概念の歴史的構成」 出来にムラはあるが、現代哲学と古代中世の哲学史を結び付けた試みとしては興味深い 古代中世の哲学史を英語圏の現代哲学と関連付けながら論じた試みとして興味深い論文集。どの論文も最終的には著者の専門であるア…

大賀祐樹「リチャード・ローティ」

「リチャード・ローティ―1931-2007 リベラル・アイロニストの思想」 ローティの著作をあまり消化できていない、大して分かりやすくもないレジメみたいな本 ローティ思想の入門書として書かれた本であるが、著者のローティ理解が未熟なせいでさっぱり分かり易…

競争的民主主義の市場とのアナロジーによる擁護のどこが問題なのか?

フィシュキンの「人々の声が響き合うとき : 熟議空間と民主主義」を読んで以来、民主主義の制度論に興味を持っていたが、機会があって今度は熟議民主主義のライバルとされる競争的民主主義を擁護するシャピロの「民主主義理論の現在」を読んでみた。 「民主…

認識論的な整合主義を擁護できる形に整えてみる

分析的な認識論にはよく議論される論点が幾つかあって、内在主義vs外在主義や基礎づけ主義vs整合主義といった説の対立が争点になる。これらの説の内で、内在主義の立場は外在主義以外の説と一緒にできるので、基礎づけ主義と外在主義と整合主義の三つが認識…

バンジョー、ソウザ「認識的正当化」への偏った感想

「認識的正当化―内在主義対外在主義」 お世辞にも読み易くはないが、中級以上向けの分析的な認識論の本として興味深い本 分析哲学の認識論については戸田山和久「知識の哲学 (哲学教科書シリーズ)」を既に読んでいて、これは分析哲学入門としても優れている…

加國尚志「自然の現象学」

「自然の現象学―メルロ=ポンティと自然の哲学」 晩年メルロ=ポンティの講義に基づいた解説だが、彼の問題意識は分かるようになるが、哲学内容にまでは至れない 晩年メルロ=ポンティの自然講義に基づいて、晩年メルロ=ポンティの問題意識を炙り出した興味…

チャールズ・テイラー「自我の源泉」を読んでみた(ただしお勧めはしない)

「自我の源泉 ?近代的アイデンティティの形成?」 近代批判的な思想史を描いたテイラーの代表作だが、無駄に長大なので読み切るには覚悟が必要 政治哲学者サンデルにも影響を与えた、共同体主義者の一人とされるチャールズ・テイラーの代表作。「距離を置いた…

ジョン・ロールズ「ロールズ哲学史講義」上/下

「ロールズ 哲学史講義 上」 一定の哲学史の知識や読解力がないと難しいが、その高いハードルを越える価値はある名講義 著名な政治哲学者ジョン・ロールズが1970年代から行なっていた道徳哲学に関する講義の、1991年の最終原稿を元にして編集された講義録。…

竹島博之「カール・シュミットの政治」

「カール・シュミットの政治―「近代」への反逆」 偏見を持たれがちなシュミットの政治思想をバランス良く概観した良質な研究書 ナチスの御用学者と非難されがちなシュミットの政治思想を元々の歴史的文脈から読み解いた、解説書としても有用なバランスのとれ…

フリートウッド「ハイエクのポリティカル・エコノミー」のレビューと長々とした批判

「ハイエクのポリティカル・エコノミー―秩序の社会経済学」 前半の前期ハイエクへの哲学的な検討は今一だが、後半での後期ハイエクの知識論は秀逸 批判的実在論というメタ理論的な立場からハイエクの社会経済学を論じた著作。著者も言うように経済思想史の著…

酒井智浩「トートロジーの意味を構築する」のレビューとおまけ

「トートロジーの意味を構築する ―「意味」のない日常言語の意味論」 著者の言語学界への恨み節まで付き合わなければ、トートロジー文の言語学的分析として有用 これまでのトートロジ文に関する言語学的分析を批判的に検討し、その結論*1に伴って言語学の持…

金子洋之「ダメットにたどりつくまで」の簡潔なレビューとちょっとした批判

「ダメットにたどりつくまで (双書エニグマ)」 数学における反実在論の解説としては良質な、中級以上向けのダメット哲学への入門書 日本を代表するダメット研究者による、日本語で読めるおそらく唯一のダメット哲学の解説書。ただし、あとがきにもあるように…

木前利秋「メタ構想力」のレビューとその注釈

「メタ構想力―ヴィーコ・マルクス・アーレント (ポイエーシス叢書)」 専門書としても一般書としても一長一短な、よくがんばりました賞の人文書 私の個人的な興味とたまたま合っていた内容だったので試しに読んでみたが、褒めるほどでもなく貶すほどでもなく…

お勧めアマゾン・レビュアー

私は定期的に興味の領域が変化する人間で、ここの所は人文書が読書の中心になっています。でも自分は科学に興味があるんだ〜という方向けにお勧めのアマゾン・レビュアーを見つけました。アマゾンは便利ですが糞レビューも多いので、良質なレビュアーは貴重…

ディディ=ユベルマン「イメージの前で」から現在思想的な芸術論を学ぶ

「イメージの前で: 美術史の目的への問い (叢書・ウニベルシタス)」 現在思想的な美術史の脱構築としてまあまあの出来だが、今更読む意義があるかは微妙 まず始めに注意すべき点は、これは過去の芸術作品を扱った美術史そのものの本ではなくて、学問としての…

柴田寿子「スピノザの政治思想」を読んで勝手に考えたこと

「スピノザの政治思想―デモクラシーのもうひとつの可能性」 日本人学者によるスピノザ政治論の傑作 著者は既に故人だがそれが本当に惜しまれるほどのスピノザ政治論の大傑作。始めはアマゾンのレビューでも書こうと思ったが、既に見事に褒めてるレビューがあ…

中野剛充「テイラーのコミュニタリアニズム」の簡潔な書評と長い補足

「テイラーのコミュニタリアニズム」 テイラー思想の全体像を知る解説書としてなかなか悪くないが、食い足りない感も残る 日本では翻訳も紹介も貧しいテイラー思想をテーマにした日本では稀有な著作。共同体主義者や多文化主義者として有名なチャールズ・テ…

他にもAmazonレビューが以前より少し増えてます

お暇な方はどうぞ↓ 蒼龍のAmazonレビュー一覧 少し前の人文書中心で、気まぐれで書いてるだけなので、新刊やお勧め本をレビューする可能性は低いです。てか、私が個人的に好きな本は地味な物ばっかりだし、本当にお勧めできる本はたいてい私ごときの書くこと…

濱真一朗「バーリンの自由論」についての書評と意見

バーリンの自由論―多元論的リベラリズムの系譜 貧弱なバーリン論とバーリンの影響を受けた学者の単なる紹介を並べただけの本 自分の政治思想への興味の一環としてバーリンに興味を持ってこれを読んだのだが、完全な期待外れ。題名に反してバーリン自身につい…

量子意思決定論に興奮してネットで調べてみる(そして匙を投げる)

私の数少ない愛読雑誌の日経サイエンスの最新号には、私のような認知科学好きにはヨダレのでるような記事が目白押しだったが、特に記事「パラドックスに合理あり | 日経サイエンス」には興奮してしまった。私ごときがその内容をうまく説明などできないので、…

浅野俊哉「スピノザ 共同性のポリティクス」の(アマゾンには載せにくい)レビュー

「スピノザ共同性のポリティクス」 スピノザ・ルネサンス以後のスピノザ論として悪くないが、それ以上の期待はしない方が妥当 二十世紀後半にフランスでスピノザを新たに読み直すスピノザ・ルネサンスが起こり、その影響を受けたスピノザ論としてはそれなり…

エヴニン「デイヴィドソン」に対する書評というより批判的検討からの論考

デイヴィドソン―行為と言語の哲学 デイヴィドソン哲学の総論としては貴重だが、解説は分かりにくく批判も説得力に欠ける デイヴィドソン哲学を全体として扱った著作は今でも珍しいが、解説書としては分かりにくい上に説明が独特な所も多く問題ありで、素直に…

バーリン「自由論」

自由論(新装版)(ただし引用は旧版から) 今となっては「二つの自由概念」しか読むに耐えないが、それでさえ価値的には資料に近い 消極的自由と積極的自由の二分法で有名になった「二つの自由概念」を含んだ政治思想家バーリンのエッセイ集。古典と化した「…

パワーズ「エコーメイカー」(元はアマゾン用の)書評

「エコー・メイカー」星4つ 脳損傷による精神障害を題材にした地味ながらも優れた大作 この小説が傑作なのは全米図書賞を採ったことなどからも分かるので、それについてはもう詳しく述べない。脳障害が題材になってはいるが、この作品に出てくる様々な脳障…