認知科学

書評 クライヴ・ウィン「イヌは愛である」

「イヌは愛である 「最良の友」の科学」 犬の心について人との接触で育まれる愛情の視点から様々な科学的な研究から論じた著作、興味深い部分はあるが全体としてのまとまりは悪め 犬は人との触れ合いによって愛情を育んで社会的能力を発揮することを、様々な…

書評 グレゴリー・バーンズ「イヌは何を考えているか」

「イヌは何を考えているか 脳科学が明らかにする動物の気持ち」 動物の神経科学について著者自身の研究エピソードを混じえながら語る科学エッセイ 動物の脳を研究する著者が、自身の研究の具体的なエピソードを混じえながら、動物の心について科学的に語る著…

正統派の進化心理学を知れる最近でた日本語の論文をお薦めする

私にとって進化心理学とは〜1990年代に勃興し、2000年代に広く流行り、2010年代になると批判が出てきて分野として落ち着く〜という経過をたどった学問分野で、今でも興味はなくはないか今さら論争するほどではない…と思っている。だが、これは欧米での事情で…

書評 ケイレブ・エヴェレット「数の発明」

「数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた」 人の数的な認識を、(特に認知科学的な成果を中心に)様々な学問的な成果を紹介しながら考察していく、一般向けの読みやすい科学書。父親がピダハン論争で有名なダニエル・エヴェレットである、その息子ケイ…

どの研究成果に再現性がないのか?なんてよく分からんわ

心理学で実験的な研究が再現できない問題が話題になってから何年も経つ。私は現在の事情は把握しきれてないが、どうも教科書をかなり書き換えないといけない?と思わせるほどの、激しい動きになってるようだ1。最近草稿が出た再現性問題を扱った論文は、こん…

愚痴の後で書きたい記事のアイデアだけを書く

以下はただの愚痴なので読み飛ばせ 私がこのブログで書くことはだいたい早すぎて、その時点ではあまり理解されない。 俗流クオリア論批判もその流行りのまっただ中で書いたが、当時は学者も含めて誰も批判する人がいないことに呆れていた。ピンカーやマッド…

最近の認知科学の哲学における用語「実在論」の濫用を憂う

前回の記事では、科学における実在論(realism)を取り上げた。あらためて、該当箇所を引用しておこう。 科学哲学にはある大きな論争がある。それは、科学的に観察できない現実を信じることは正当化されるか?(実在論)、観察できない何かは科学的に観察できる…

フリストンブランケットはどんな科学モデルなのか?

論文「皇帝の新しいマルコフ織物」 今回、ある程度突っ込んで紹介したいのは、次の論文だ。 google:Jelle Bruineberg Krzysztof Dolega Joe Dewhurst Manuel Baltieri The Emperor’s New Markov Blankets 論文のタイトルは、おそらくペンローズ「皇帝の新し…

画像生成プログラムDALL-Eから人の知性を考える

WIREDの記事はいつも楽しみに読んでいるが、最近はこんな記事が面白かった。 AIは人の知性とは異なる道を歩む この記事を見てあらためて思うのは、現在の人工知能は生きた知性とは全く違う道を歩んでいるということだ。そこで思い出すのは、スタニスラフ・レ…

公正世界仮説という訳語を勝手に考察してみた

この前、YouTubeで社会心理学者が公正世界仮説を紹介しながら、コロナ禍の差別について語っていた。まあまあ面白かったので、興味のある人はどうぞ。 自分は公正世界仮説を知らなかったので、それなりに興味を持って聞けた。正直、終わりの方の話とか、もう…

最近見た社会心理学者キース・ペインのTED講演が良かった

私は英語のリスニングは苦手なので、TEDの日本語字幕の動画は確認してたまに見てる。日本にはTED講演に文句を言う人もたまにいるが、このレベルの科学的な内容をコンパクトにまとめた動画は日本にはほとんどない。 最近見た社会心理学者キース・ペイによる政…

存在論的転回について自分で勝手に考えてみた

宮台真司の映画評は好きなのだが、ときどき挟み込まれるアカデミックな言及には首をひねることが多い。今回はこれ 今日の思想界隈における「存在論的転回」につながるスリリングな話なので、ざっと説明しましょう。 90年代半ばにフランスの人類学者ダン・ス…

科学は泥沼が面白い?

今年に入ってから、予測処理論への本格的な批判が目立ちつつある。前に紹介したMiłkowskibらの論文("Unification by Fiat")や、既に軽く触れたDaniel Williamsの草稿1、まだここでは紹介してない暗い部屋問題を扱った文章での行動主義理論との比較も興味深い…

なぜ認知バイアスで行動を説明したことにならないのか?

今回のコロナ禍で、政治家などの言動を批判するのに正常バイアスを持ち出すことが見られた。正常性バイアスは以前の記事で引用した説明があるので、それをこのまま引用しておきます。 正常性バイアス:災害やそのありうる帰結が起こりうる可能性を低く見積っ…

予測処理理論は用語があいまいに使われているのか?

この前、統一理論としての予測処理(PP)理論を批判する論文を読んでいると書いた。それは次の論文だ。 google:Piotr Litwin, Marcin Miłkowski Unification by Fiat: Arrested Development of Predictive Processing には、一通り内容には目を通した。それな…

最近のWIREDのAI記事をお勧めしてみる(一部コメント付き)

ネットにある日本語で読める信頼できる科学記事…というのはお世辞にも多くない。その中でWIREDの翻訳記事は質の高い信頼できる科学的な記事ばかりで当てになる。特に初期の情報が混乱してた中での新型コロナ関連の記事はとても助かった。 WIREDは人工知能(AI…

知覚の予測処理モデルの神経生理学的な証拠を調べた論文を自動翻訳を使った手抜きで紹介する

ネットで調べ物をしてたら、記事タイトル通りの知覚の予測処理モデルの神経生理学的な証拠を調べた論文を見つけました。 google:Kevin S. Walsh, David P. McGovern, Andy Clark, and Redmond G. O’Connell Evaluating the neurophysiological evidence for …

論文「Is the Free-Energy Principle a Formal Theory of Semantics?」の背景を説明する

ネットを見てたら、自由エネルギー原理で有名なフリストンが共著者の最新論文が紹介されてた。 ツイートを見てたら、この論文がenactivismを否定してるかのような書き込みを見て、気になって論文を眺めてみた。その結果、それは勘違いだと思ったが、その哲学…

AIでデータの偏りと社会の偏りは分けてみよう

このブログの前回の記事で、相関しか見ない人工知能では知的な機械としては限界があるとするパールの見解を紹介して、相関しか見ないニューラルネットワークは現実の偏りを学習すると書いた。 その後に、新型コロナ騒ぎも含めて色んな事情で大事なブログを確…

楽観主義バイアスは人類に共通の認知バイアスか?

少し前に、ここのブログの記事である論文に付属していた認知バイアス小辞典を紹介した。そこには有名なバイアスも多く説明されていたが、次の認知バイアスもよく見かける有名なものだ。 楽観主義バイアス:好ましい出来事の確率を過大に見積もり、嫌な出来事…

社会生物学が還元主義的でないことを進化ゲームから理解する

少し前にネットで、哲学者がドーキンスの機械論を論じていた記事を読んでいて、あぁ〜この辺りについては私が説明しておいた方がいいのかなぁ?と感じてしまった。 社会生物学(行動生態学)1や進化心理学については、一応は私の関心領域と関わりが深いので一…

認知バイアス用語集が便利な事典項目

私が最近に認知科学について興味を持っている内容が、一般向けにはマニアックすぎて書くのを躊躇している。そんな内容を書けないならこんなブログ続ける動機などないのだが、とりあえず比較的どうでもいい軽い話題でしのごうかと思う。 最新版 事典の認知バ…

メタ認知はなんとか中毒を抑制できるのか?

こうした脳の手抜きを防ぎ、「正義中毒」に飲み込まれないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。 中野さん ひとつ提案したいのは、「メタ認知」を鍛えることです。「メタ認知」とは、いわば自分を監視するもうひとりの自分。 どんなときに「許せない!」…

ながら運転の危険性を注意の心理学から考えてみた

テレビやラジオで、時々スマホを片手にしてのながら運転の事故があった時に、専門家に話を聞くことがあるのだが、聞いていて満足できることはまずない。もちろん話を聞く専門家の選択に問題があるのかもしれないが、それよりも認知心理学についての知識があ…

2010年代に私が感激した認知科学の哲学論文BEST3

もう2019年も終わるということで、2019年の認知科学を振り返ろうとする記事を書く計画は立ててみた。しかし、去年までの人工知能ブームが収まった今年は特にこれといった特徴を思いつくこともない。もしかしたらあったかもしれないが私には分からない。predc…

ここのブログ記事に書いた自分の直感的理解が論文で確認できた話

このブログでは、できれば文献で確認できることを書くように努力はしているが、それでも私がその方が分かりやすいと思ったら直観的な理解に基づいたこともよく書いている。そのうち最近の記事に書いた直観的な理解を論文で確認できた例があったので軽く触れ…

What happend to cognitive science?を読まずに反論論文だけを読む

少し前に認知科学について調べていたら、現在の認知科学を否定的に評価する論文google: R Núñez "What happend to cognitive science?"の要旨ページを見つけた。その要旨を読んで違和感があったが、無料で論文本文を読める訳でなかったせいもあり、そのまま…

自由エネルギー原理についての私的注釈(ただし解説ではない)

自由エネルギー原理は神経科学者や哲学者や心理学者などの様々な分野の学者によって議論されている注目の理論だ。日本でも紹介され始めて研究が進みつつある。ただそれらを見ていると自由エネルギー原理についての議論がいかに曖昧かが十分に理解されていな…

なぜかネットで手に入る英語による認知科学の教科書を見る

お世辞にも日本の認知科学を巡る状況は褒められた状況ではない。書籍に関しても、私がこのブログを書き始めた十年ちょっと前に比べればかなりマシになったとはいえ、全体的に見れば楽観視はできない。それでも一般向け読み物としての入門書はいくつかあって…

ベイジアンの合理的分析について考える

前回の記事でTauber et al."Bayesian models of cognition revisited"を読んでから、その著者らが批判したがっている最適アプローチなるものが気になって調べてみた。まず、実際に調べてみるとTenenbaumらの研究が合理的だとされる理由がはっきりとしてきた…