J.J.ギブソンの刺激概念再考

J.J.ギブソンは論文集isbn:4326101539「心理学における刺激の概念」で刺激概念を考察している。そこで八つの論点を挙げている。以下の引用は全て翻訳から。

  1. 刺激は、個体を動機づけるのか、或いは、単なる反応のきっかけに過ぎないのか(p.278)
  2. 刺激は、反応の充分な原因と見なせるか否や(p.279)
  3. 刺激は、それによって生じる反応とは独立に(行動や感覚過程によってではなく物理的に)定義されなくてはならないのか(p.281)
  4. 刺激は環境の中に存在するのか、それとも、受容器に存在するのか(p.283)
  5. パターンや関係は、どのような場合に単一の刺激と見なされ、どのような場合に別個のいくつかの刺激群と見なされるのか(p.285)
  6. 事象の継起は、そのような場合には「単一の刺激」であり、どのような場合には「相異なる刺激群」であるのか。また、単一の持続する刺激は、変わり行く事象の継起を通じて存在し得るのか(p.287)
  7. 刺激の構造をどのようにして特定すればよいのだろうか(p.288)
  8. 外界に存在する刺激の発生源に関する情報を、刺激は伝達するのか。そして、刺激はどのようにしてその発生源を特定するのか(p.291)

以下は重要と思われる回答からの引用。

我々が明らかにしなければならないのは、「生活体が、何に対して反応しているのか」であって、「微細な受容器の全てを何が興奮させているか」ではない。(p.292)

私の考えでは、それは、心理学者が教科書を鵜呑みにして、物理的変数だけを刺激として捉えているからである。我々は、悪い変数ばかりを選んできたのだ。(…中略…)そこで我々は、自前の原理に基づいて、必要とされる学問を発展させなければならない。それを生態物理学と呼んでおこう。(p.294)

つまり、潜在的刺激が有効刺激になるか否かは、個体に依存している。潜在的刺激が有効刺激になるか否かは、その個体が属している種、感覚器官の解剖学的特徴、個体の成熟段階、感覚器官の順応能力、その個体の注意が持つ傾向、その時進行している活動、その個体の注意を訓練できる可能性に、依存して規定されているのである。(p.295)

自然界は、感覚器官と文字通り通信しているわけではない。ある事象から生じる潜在的な物理刺激を、その事象を表わす言葉から生じる物理的刺激になぞらえて理解することは出来ない。(p.297)

刺激が外界の対象を特定する力に関する系統的な研究によって、知覚における意味の問題は、新しい局面を迎えることになろう。知覚における意味は、そういった研究から見出される関係の種類に応じて、いくつかの形態をとるであろう。私の推測では、少なくとも三つの形態が存在し、それらは、事物から生じる刺激、絵画から生じる刺激、言葉から生じる刺激に対応している。即ち、人間は、対象の知覚を学習するだけでなく、絵画や言葉の知覚を介して事物を理解することを学習する。これら媒介された知覚は、成人では、直接的な知覚と混在している。(p.297)