認知科学はすでに終わってる…?

正直なところ、認知科学(の盛期)がすでに終わったものだとしてもそんなことはどうでもいいことだ(それを言ったらフランス現代思想はとっくに終わってる)*1。私がむかつくのは、認知科学の成果がろくに考慮されずに議論がなされていることだ。未だに認知科学人工知能脳科学と一致させるような不勉強などを目にしてうんざりする。まぁ、それを言ったら、日本の心理学の入門書のほとんどが認知心理学を記憶や思考などの特定のテーマを扱うだけの分野として扱っているレベルの低さにはさらにうんざりするが*2。どちらにせよ日本は理解のレベルが低い人が多すぎる。
今や、認知系の研究者の多くは応用研究に走っている。心理学は学習科学、言語学第二言語習得、人工知能は(認知モデルとは無関係な)実用的ソフトウェア*3脳科学は神経工学*4、哲学でも神経倫理学とか*5。でも実用や応用は構わないけど、過去の認知科学の成果を前提にしないレベルが低い話を耳にするといらついてくる*6。終わったものとして認識しても構わないから、最低限の理解はしといてくれ(何で私のような素人がこんなこと書かなきゃならないんだよ!)。
でも、ネット上のアラン・ケイのインタビュー読んで思ったけど、現在は異様に過去に興味がもたれない時代みたいで、日本もアメリカも事情は同じようだ。近視眼な時代だなぁ。

*1:ちなみに、知の欺瞞で指摘されたような思弁的おしゃべりもうんざりだが、認知科学を単なる自然科学と勘違いする科学主義も私は嫌いだ。そんな人は私のいた心理学科にもいたが、そんなのは自然科学コンプレックスに過ぎない。そういう人はたいてい認知革命の意義を理解できず、ただの輸入学問カブレになってしまうのがオチだ

*2:ちなみに、一般向けにお薦めできる心理学本は下條信輔「サブリミナル・マインド」ASIN:4121013247。それにしても、未だに日本で出てる心理学本のほとんどは認知革命以降とは思えないひどいのが多いので注意

*3:例えば、翻訳ソフトにおける統計の利用。人間が実際に翻訳時にそんなことしてるわけないが、実用的な方法だと認めざるを得ない

*4:とはいえ、脳科学はこれまであまり認知科学の影響を受けていない(むしろ逆の)孤高な分野だから例としてあげるのは不適切かも

*5:最近の人類学はよく分からない。過去には心理学実験を用いた比較文化研究や状況論的アプローチを採用したフィールドワーク研究などがあって、認知科学によく貢献していた

*6:一応指摘しておくと、私が話しているのは典型的な(伝統的)認知科学であり、茂木氏の語るような意識を扱う認知科学は新しくてはっきり言って派生的だ。ASIN:480671187X。というか、典型的な(伝統的)認知科学がきちんと分かれば応用は利くと思うが