E.八ッチンス他「空間、身振り、話し言葉から意味を構築する」より抜粋

序文

仕事場での対面コミュニケーションはよく主に話し言葉から成立してると思われる。話し言葉は明らかに表象の作成にとってとても重要な媒体であるが、複雑な仕事場面では様々なそうした媒体のうちのひとつである。身振りと話し手と聞き手がいる空間はたいてい話し言葉の解釈への文脈を提供してると思われる。この文章では、複雑で多層的な表象の構築において、そこでは一つだけの層が複雑だったり一貫してたりはしないが、どのように空間や身振りや話し言葉がすべて組み合わされるのかを示す。私たちは一人の働き手がした短い説明を別の二人にたずねた。専門的な人工物の空間的構成での配置、人工物に対する身振りの位置づけ、話された言葉の中で、どのように説明の意味が運ばれるのかを示す
(以下省略)

データの収集

私たちの研究の舞台は商用航空のコックピットである。これは複雑でかなりの技術のいる仕事場で、そこで乗務員は目まぐるしくかなり危険な活動に従事している。乗務員の仕事の質は、お互いの行動と飛行機の時々の動きとにそれを合わせる能力に依存している。
(以下省略)

本文の分析

(すべて省略)

議論

身振りは話し言葉を支えるのか?明らかにそうだ、しかし、話し言葉は身振りを支える以上のことはない。この例は視覚的聴覚的モジュールにおける様々な種類の構造の重ね合わせを通して構成される表象的な対象の複雑さの産物を示している。対象の各層のどれかひとつに優位を許すと全体を壊すことになる。
燃料パネルの物理的配置と以前に遭遇していた燃料システムとの関係が、パネルを物としてまたはそれが表す燃料システムとして見ることを乗員に許す。これによってパネルのあたりで行なわれる身振りが解釈されるのを許すのだ、パネルに付帯する行動として、燃料システムにおける出来事として、またはその両方として。話し言葉が使われるのは、身振りでは簡単には表現できない関係を扱うためだったり、ある解釈上の流儀から別の流儀への移行のためだったりする。このようにして、その全体は複雑に織り交ぜられた行ないになる。認知システムとしての乗務員や操縦室の特性は、部分的に彼らの間のコミュニケーションのパターンとその豊かさによって決められる。パネルの空間、パネルとの間の乗員の位置関係、すべての身振りに対する手の有効性は操縦室におけるコミュニケーションの可能性にとって重要である。そのようなシステムの働き方を理解するためには、個人の認知の特性どころか決定を助ける個人の意思決定を理解するだけでも不十分だ(そのような知識は確かに役に立つのだが)。現実世界の意思決定はしばしばここで叙述された複雑で多層的な公的表象のその種類の使用や作成に巻き込まれている。



英語原文はHutchins, E. & Palen, L. "Constructing Meaning from Space, Gesture, and Speech"(1997). http://hci.ucsd.edu/hutchins/vitae/Publication-links.htm
ハッチンスはアメリカ海軍でフィールドワークした経験から、仕事現場で人々がいかなる認知活動を行なうかを分析した人として有名です。唯一の翻訳は古い論文が「認知科学ハンドブック」にありました。主著の「野生の認知」は日本で訳される気配はありません。認知科学好きだけでなく海軍好きにも受けるはずなのに…。実は、これは私が唯一最初から最後まで通読した洋書でもある(他はつまみ食い)。似たような方法(相互行為分析)をとった状況論的アプローチの代表作であるサッチマンやレイヴの本は訳されたのに…。ちなみに、サッチマンもレイヴもハッチンスも人類学者です。あと、本文の分析がなければ面白くないと言われればその通りだが、めんどくさいのでやらない。まぁ、引用レベル以上は訳す気になどなれないが。