正統派の進化心理学を知れる最近でた日本語の論文をお薦めする

私にとって進化心理学とは〜1990年代に勃興し、2000年代に広く流行り、2010年代になると批判が出てきて分野として落ち着く〜という経過をたどった学問分野で、今でも興味はなくはないか今さら論争するほどではない…と思っている。だが、これは欧米での事情で…

書評 ケイレブ・エヴェレット「数の発明」

「数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた」 人の数的な認識を、(特に認知科学的な成果を中心に)様々な学問的な成果を紹介しながら考察していく、一般向けの読みやすい科学書。父親がピダハン論争で有名なダニエル・エヴェレットである、その息子ケイ…

書評「この本を盗む者は」

当初はアマゾン向けのレビューとして書いたが、長い上に内容がこれなのでこっちに掲載に変更 「この本を盗む者は」 深緑野分のアイデアは素晴らしいけれど、それが小説としては十分に活かされていない勿体無い作品 「ベルリンは晴れているか」で一般に広く知…

どの研究成果に再現性がないのか?なんてよく分からんわ

心理学で実験的な研究が再現できない問題が話題になってから何年も経つ。私は現在の事情は把握しきれてないが、どうも教科書をかなり書き換えないといけない?と思わせるほどの、激しい動きになってるようだ1。最近草稿が出た再現性問題を扱った論文は、こん…

日本はネトウヨもリベラルも前提の少ない一般化できる議論ができない

私は日本に跋扈するいわゆるネトウヨなんて馬鹿にしてるし、ネットでたまに見かけるネトウヨ的な発言も私には簡単に反論を思いつくことが多い。今の日本は、以前よりはネトウヨに反抗しやすくなり、状況は少しは良くなると思っていた。しかし、思ったより状…

愚痴の後で書きたい記事のアイデアだけを書く

以下はただの愚痴なので読み飛ばせ 私がこのブログで書くことはだいたい早すぎて、その時点ではあまり理解されない。 俗流クオリア論批判もその流行りのまっただ中で書いたが、当時は学者も含めて誰も批判する人がいないことに呆れていた。ピンカーやマッド…

科学において理論は再現性問題に貢献できるのか?

同じような実験結果が再現できるか?を問う再現性問題を論ずる心理学者は日本でも増えてきて、私もよくそれらを興味深く読むことがある。 ただ、心理学者の語る再現性問題を読んでいて時々気になるのが、心理学は理論を発展させれば再現性問題は解けるかのよ…

最近の認知科学の哲学における用語「実在論」の濫用を憂う

前回の記事では、科学における実在論(realism)を取り上げた。あらためて、該当箇所を引用しておこう。 科学哲学にはある大きな論争がある。それは、科学的に観察できない現実を信じることは正当化されるか?(実在論)、観察できない何かは科学的に観察できる…

フリストンブランケットはどんな科学モデルなのか?

論文「皇帝の新しいマルコフ織物」 今回、ある程度突っ込んで紹介したいのは、次の論文だ。 google:Jelle Bruineberg Krzysztof Dolega Joe Dewhurst Manuel Baltieri The Emperor’s New Markov Blankets 論文のタイトルは、おそらくペンローズ「皇帝の新し…

画像生成プログラムDALL-Eから人の知性を考える

WIREDの記事はいつも楽しみに読んでいるが、最近はこんな記事が面白かった。 AIは人の知性とは異なる道を歩む この記事を見てあらためて思うのは、現在の人工知能は生きた知性とは全く違う道を歩んでいるということだ。そこで思い出すのは、スタニスラフ・レ…

なぜ陰謀論を信じるのか?の説明を説明する

最近相次いでラジオで、なぜ陰謀論を信じるのか?を学者が説明するのを聞いた。その説明がどのくらい説得的か?は色々だった。だが、それらを聞いていて何より感じたのは、これは単一の要因で説明できるような代物ではない…という強い感覚だった。 なぜ陰謀…

トランプ問題とプラットフォーム問題は分けなきゃ駄目でしょ!

以前、このブログで人工知能の偏り問題についての記事を書いたことがある。 そこではAIの偏りの原因を因果(回帰分析)とサンプリング(データセット)の二つに分けて論じた。最近、データセットの偏りによって生じるAIの問題を論じた記事があがっていた。 この…

最新のリバタリアニズム研究を紹介した記事を読む

ピーターさんがnoteに書いている、最新のリバタリアニズム研究を紹介する連続記事は、少し前からここで紹介したいと思っていた。 しかしだんだんと、これらはロールズやノージックについてそれなりに知識ないと分からないのでは?と気づいてから、躊躇するよ…

公正世界仮説という訳語を勝手に考察してみた

この前、YouTubeで社会心理学者が公正世界仮説を紹介しながら、コロナ禍の差別について語っていた。まあまあ面白かったので、興味のある人はどうぞ。 自分は公正世界仮説を知らなかったので、それなりに興味を持って聞けた。正直、終わりの方の話とか、もう…

去年の雑な振り返りと、書きそうな記事の予告

去年の認知科学関連、私的な概振り返り 最近の認知科学関連については、特に二十一世紀に入ってから次々と続いていた関連したブーム1がだいたい落ち着いてきた2。認知科科学にブームとして残っているのは、もう(自由エネルギー原理を含んだ)予測処理理論ぐら…

郡司ペギオ幸夫と宮台真司の対談からのとりとめのない連想

この記事は、(私にしては)全体的にとりとめがない文章なので、そこを承知の上でお読みください。 郡司ペギオ幸夫と宮台真司の対談を読んだのだけれど、一応面白くは読めたけど、認知科学関連に関してはまぁ突っ込みどころが満載であった。素直にはお薦めしに…

最近見た社会心理学者キース・ペインのTED講演が良かった

私は英語のリスニングは苦手なので、TEDの日本語字幕の動画は確認してたまに見てる。日本にはTED講演に文句を言う人もたまにいるが、このレベルの科学的な内容をコンパクトにまとめた動画は日本にはほとんどない。 最近見た社会心理学者キース・ペイによる政…

人文学の危機を考える助走に向けての準備中

人文学の危機については以前から調べていて、記事を書く機会をうかがっていた。日本の人文学者の書いた人文学擁護論は幾つか読んだことがあるが、虚しい自己弁護を垂れ流してるだけとしか思えず、不満しかなかった。最近見たものだと次のものがあるが、これ…

存在論的転回について自分で勝手に考えてみた

宮台真司の映画評は好きなのだが、ときどき挟み込まれるアカデミックな言及には首をひねることが多い。今回はこれ 今日の思想界隈における「存在論的転回」につながるスリリングな話なので、ざっと説明しましょう。 90年代半ばにフランスの人類学者ダン・ス…

統計について勘違いしやすい注意点を並べてみた(私家版)

この前、ツイッター上で統計に主義はいらないか?でもめてるのを見た。結果としては大した議論にはならなかったのだが、実はそれと同じ内容を日本の学者が主張しているのを既に見ていて、違和感はあった。海外の学者がそんな主張をしているのを見たことはな…

科学は泥沼が面白い?

今年に入ってから、予測処理論への本格的な批判が目立ちつつある。前に紹介したMiłkowskibらの論文("Unification by Fiat")や、既に軽く触れたDaniel Williamsの草稿1、まだここでは紹介してない暗い部屋問題を扱った文章での行動主義理論との比較も興味深い…

なぜお役立ち野郎が資本主義の敵なのか?(注つき)

最近、役に立たない科学はいらない!的な発言をする人を日本でもよく見かける。そういう奴を見かけるたびに、資本主義の本質を理解してない馬鹿な奴らだなぁ〜と軽蔑せざるを得ない。既成のお役立ちという閉じた価値観の中にいては、資本主義の中での発展は…

なぜ認知バイアスで行動を説明したことにならないのか?

今回のコロナ禍で、政治家などの言動を批判するのに正常バイアスを持ち出すことが見られた。正常性バイアスは以前の記事で引用した説明があるので、それをこのまま引用しておきます。 正常性バイアス:災害やそのありうる帰結が起こりうる可能性を低く見積っ…

確率が分からなくても予測符号化を説明できる?

この前、YouTubeで人工知能学者の新井紀子が出演してる動画を見た。それは面白かったが、気になったのは、日経新聞を購読してる人でも「率」のつく言葉が苦手との話だ。 予測処理論や予想符号化については既にここでは何度も触れてきたが、まともな説明をま…

アメリカの最高裁判事と司法審査制について少しだけ書いてみた

ラジオを聞いてたら、最近のニュースであるアメリカの最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグが亡くなったという話題について語っていた。 それを私の聞いた印象では、リベラル寄りの論者ばかりが出演していて、亡くなった判事は素晴らしかったけど、今度…

反表象主義を思弁的実在論の視点から説明してみる〈後編〉

前編からの続き 反表象主義の主張をあらためて確認する まずは、反表象主義の中心的な主張である「内容の難しい問題」(hard problem of content)を説明した、前回に翻訳した部分をもう一度引用します。 心は本質的に内容を持つ訳ではない、なぜなら内容を伴…

反表象主義を思弁的実在論の視点から説明してみる〈前編〉

認知科学における一立場である反表象主義については、このブログでも折りに触れて軽くは言及してきた。しかし、反表象主義について独立した記事を書くのはずっと躊躇してきた。 それは、私が反表象主義に批判的なのに日本では反表象主義がほとんど知られてい…

自由エネルギー原理が正しいときの奇跡に気づく

この前の統一理論としての予測処理理論を批判する論文を読んで以来、疑惑の種が私の中に蒔かれてしまった。その後もいくつか関連記事を読んでるけど、あれ?これは?と言った疑問部分が目に付きやすくなってる。 予測処理理論の関連理論の間の関係がよく分か…

予測処理理論は用語があいまいに使われているのか?

この前、統一理論としての予測処理(PP)理論を批判する論文を読んでいると書いた。それは次の論文だ。 google:Piotr Litwin, Marcin Miłkowski Unification by Fiat: Arrested Development of Predictive Processing には、一通り内容には目を通した。それな…

最近のWIREDのAI記事をお勧めしてみる(一部コメント付き)

ネットにある日本語で読める信頼できる科学記事…というのはお世辞にも多くない。その中でWIREDの翻訳記事は質の高い信頼できる科学的な記事ばかりで当てになる。特に初期の情報が混乱してた中での新型コロナ関連の記事はとても助かった。 WIREDは人工知能(AI…