2008-01-01から1年間の記事一覧

なぜアンケート調査は認知科学の研究にはならないのか?

アンケート調査は認知科学の研究にはなりえない。アンケート調査と言っても、企業がよくやる消費者に適当な質問に答えてもらうようなものというよりも、心理学や社会学での尺度(例えば好きから嫌いまでの間を5段階に分けてそこから選ぶようなタイプの質問の…

「解読! アルキメデス写本」を読んだ

「解読! アルキメデス写本」ISBN:4334962033。この著作は科学史と文献学を巡るめくるめく冒険を描いた面白い本である…ことは前提として問題は何故これをここで紹介するかである。一見すると無関係そうだがこの著作、実は認知科学との関連はゼロじゃない。著…

功利主義とプラグマティズム

UtilityとPracticalの間(2・完)http://blog.goo.ne.jp/william1787/e/1cbe3a048dec2aead4228ca3ec086e2c イギリスの功利主義が普遍的で、アメリカのプラグマティズムがローカルであるというのは一面で正しい。しかし、それはイギリスとアメリカの違いでは…

文化的進化のメカニズムとしての制度:疫学的アプローチへの展望(要旨だけ)

原文:"Institutions as Mechanisms of Cultural Evolution: Prospects of the Epidemiological Approach" Christophe Heintz http://www.citeulike.org/user/cheintz/article/1841076(PDFへのリンクあり) 要旨の訳 文化的進化の研究の部分として制度を調…

C.S.パース「記号とは何か」から冒頭部分

1、これは最も必要な質問である、なぜならすべての推論はある種の記号の解釈だからである。しかし、それはかなり難しい質問でもあり、深い省察を必要とする。 心の異なる3つの状態を認める必要がある。第一に、夢を見ている状態の人を想像しよう。彼が赤い…

hyさんのコメントに応答する

http://d.hatena.ne.jp/deepbluedragon/20060707/p1#c1210038824 まず始めに断っておきますが、私は(認知科学ならまだ自信が持てるが)システム論は詳しくないので以下で言ってることを真に受けすぎないでください*1。 日本で2次観察が機能しないとは、つ…

メディア・リテラシーを発揮させてみる

身近な具体例の利用は数学学習の助けにならない http://www.yakuji.co.jp/entry6627.html これは研究としては面白いと思うけど、記事に書かれている帰結には首をひねらざるを得ない。結論が飛躍気味なのはジャーナリズムの特色とはいえ、少し自分で検討して…

近況とか宗教と科学の問題とか

最近は、書きたいことがなくなったとか興味が認知科学以外に向かっているとか諸々の理由でブログを更新する気力が湧いてこない。ネットに拘束されるのは面倒なので個人的にはそれでも構わないのだが。自分の好みのブログの紹介を兼ねてリンクぐらいはしてみ…

モンティ・ホール問題と認知的不協和(前回の続き)

モンティ・ホール問題とは次のような問題である。まず自分で解いてみてから、先に読み進んでください。 問題は次のようなものである。プレイヤーは、三つのドアを見せられる。ドアの一つの後ろにはプレイヤーが獲得できる景品があり、一方、他の二つのドアに…

選ばなかった方のチョコは「すっぱい葡萄」である

心理学者は確率計算が苦手? http://slashdot.jp/science/article.pl?sid=08/04/12/0419234 まず始めに困ったことは、この実験のどこが認知的不協和の実験なのか分かりにくいことだ。認知的不協和ってのは社会心理学ではよく知られている用語だ。有名なフェ…

何となく近刊情報

岩波講座 哲学 http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/011261+/top.html 第1回配本がいきなり「心/脳の哲学」ですねぇ。目次を見ると、他の巻と比べても、結構な学者が勢ぞろいしてるのもすごい(形而上学の巻には有名な人がそろっている。科学哲学の人なんか…

宗教の認知的歴史に向けて(アブストラクトだけ翻訳)

原文:"Towards a Cognitive History of Religions"Luther H. Martin http://www.pucsp.br/rever/rv4_2005/t_martin.htm(HTML)http://www.pucsp.br/rever/rv4_2005/p_martin.pdf(PDF) 要約 宗教の学術的研究の19世紀の創始者は、この研究は科学的(wissenscha…

「日英の言語・文化・教育」の紹介

三修社 | 日英の言語・文化・教育 http://www.sanshusha.co.jp/np/details.do?goods_id=3106 「日英の言語・文化・教育 多様な視座を求めて」目次 http://www.bk1.jp/webap/user/DtlBibCollectionList.do?bibId=2976488 面白そうな本をあるきっかけで知った…

クオリアが脳に影響を与える??

コメント欄での質問のためにネットで少し調べ物をしたが、相変わらず(ウィキペディアを含めて)日本のサイトはむごい内容が多いと感じる。まずEpiphenomenalism(随伴現象説)とSupervenience(付随説)は全くの別物だ。混同しているサイトが多くてお話にな…

入門的な認知科学書のリスト

以前、認知科学の入門的な話は書いていると切りがないので出版物に任せたい、と言ったことがあったが、そう言いっぱなしだと無責任だと思ったので、安くて読みやすい認知科学書のリストを作ってみました→「新書や文庫で読める認知科学関連の良書」。著名なあ…

認知科学に潜む近代哲学史

哲学史において成されたことは認知科学においても繰り返された、と言われることがある。哲学史と言ってもどこまでさかのぼるかなどで全然違うが、少なくともカント以降の主要な哲学の流れ(いわゆる近代的エピステーメー)が認知科学の中に含まれているのは…

電波コメント

http://d.hatena.ne.jp/CUSCUS/20080208#c1203370624 本体のブログも興味深いですが、ここはあえて電波なコメントに注目。はははっ!、自分のブログにこんなコメントが来たら、(潔癖気味で2ちゃん嫌いな私でも)削除するかどうか迷ってしまいそう。

最近の気になる本

ポストフォーディズムの資本主義―社会科学と「ヒューマン・ネイチャー」作者: パオロヴィルノ,Paolo Virno,柱本元彦出版社/メーカー: 人文書院発売日: 2008/03/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 46回この商品を含むブログ (23件) を見る出版元による紹…

独り言

スピリチュアルが非科学的であることは初めから自明じゃん!みたいな個人的意見は置いとくとしても、スピリチュアル批判をしている有名な人の中には違和感を感じる人がいる。私には、果たしている(問題含みの)役割の点ではスピリチュアルと俗流若者論と俗…

認知科学の中間的な立場

私が感じる認知科学の魅力の一つは、その立場(パラダイム)の中間的なところにある。(認知科学がまだなかった)認知革命の真っ最中のころ、一方に当時の心理学で主流であった科学的厳密さの代償に意味を追放した行動主義があり、他方に人間性心理学のよう…

認知心理学のリンク

認知心理学 - MSN エンカルタ 百科事典 ダイジェスト http://jp.encarta.msn.com/encyclopedia_761554715/content.html 思考や記憶の研究を中心とした狭義の認知心理学の説明としては完璧。さすが、市販の百科事典からの無料公開版である。でもやっぱり翻訳…

言語進化:科学の最も難しい問題?(3)

Part 2の続き 7章で、ディーコンは言語進化の中心には複雑なシンボル的コミュニケーションのための人の能力があるとする。しかしながら、トマセロとは対照的に、ディーコンは世界中の言語を通して(つまり言語普遍に)見られる言語構造の多くのサブパターン…

言語進化:科学の最も難しい問題?(2)

Part 1の続き 3章でハーフォードは、人は言語を獲得して独特の心的能力を進化させるとするピンカーに賛同しているが、言語進化の説明における文化的伝達(学習)の役割には反対している。ハーフォードは、言語進化は生物学的前適応と世代を介した言語学的適…

言い訳

「翻訳はめったにやらない」と言ったその舌の乾かぬうちに、またやってしましました。でもやはり面倒なので、めぼしい有名な研究者が出てくる章の紹介までしか訳しませんでした。これだって十分に面倒でした。あくまで翻訳は私の気まぐれなので期待しないよ…

言語進化:科学の最も難しい問題?(1)

原文:Language Evolution:The Hardest Problem in Science?,Christiansen and Kirby,2003(PDF) 訳注:著作の内容を紹介した第1章から、全17章中のうちの9章までの説明の抜粋、ただし所々で訳の省略を含む 私たちを人間たらしめているのものは何か。私たち…

このブログの傾向と対策?

私がこのブログで書いていることって、認知科学の哲学や基礎みたいな話が多くなってしまう。それが私にとっての関心なのだからしょうがないのだが、そのせいか認知科学について全く知らない人には読みづらくなってしまうようだ(別に意図していることではな…

そこでただ突っ立ってないで、考えなさい(後篇)

(中篇)の続き 神経科学者が特に興味を持っていることは運動が抽象的思考にさえ演じている役割だ。 ゴールドバーグは腕の運動の言語理解への影響を調べた幾つかの研究を行なった。ゴールドバーグの仕事では、被験者にコンピュータ・スクリーン上の一連の単…

そこでただ突っ立ってないで、考えなさい(中篇)

(前篇)の続き 身体化された認知は思考についての考えの数世紀をひっくり返す。蒸気機関が目新しい機械であった時代に生きていたデカルトは、体(つまり頭)の中を生きた液体が動いているポンプであるかのように脳を見ており、どの時代でも人の認知システム…

そこでただ突っ立ってないで、考えなさい(前篇)

原文:"Don't just stand there, think"The Boston Globe,January 13, 2008 最近の研究によって、私たちは脳だけで考えているのではなくて体でも考えてると分かってきた。 あなたが、紛らわしい文書を読んでいたり、クロスワードパズルを解いたり、鍵のあり…

またまたリンク(ただし英語のブログに)

リンク記事は楽なので懲りずにまたやってみました、今度は英語のブログに*1。 The anatomy of an illusion -- and what it tells us about the visual system http://scienceblogs.com/cognitivedaily/2008/02/what_illusions_tell_us_about_t.php リンク先…