書評

バンジョー、ソウザ「認識的正当化」への偏った感想

「認識的正当化―内在主義対外在主義」 お世辞にも読み易くはないが、中級以上向けの分析的な認識論の本として興味深い本 分析哲学の認識論については戸田山和久「知識の哲学 (哲学教科書シリーズ)」を既に読んでいて、これは分析哲学入門としても優れている…

加國尚志「自然の現象学」

「自然の現象学―メルロ=ポンティと自然の哲学」 晩年メルロ=ポンティの講義に基づいた解説だが、彼の問題意識は分かるようになるが、哲学内容にまでは至れない 晩年メルロ=ポンティの自然講義に基づいて、晩年メルロ=ポンティの問題意識を炙り出した興味…

チャールズ・テイラー「自我の源泉」を読んでみた(ただしお勧めはしない)

「自我の源泉 ?近代的アイデンティティの形成?」 近代批判的な思想史を描いたテイラーの代表作だが、無駄に長大なので読み切るには覚悟が必要 政治哲学者サンデルにも影響を与えた、共同体主義者の一人とされるチャールズ・テイラーの代表作。「距離を置いた…

ジョン・ロールズ「ロールズ哲学史講義」上/下

「ロールズ 哲学史講義 上」 一定の哲学史の知識や読解力がないと難しいが、その高いハードルを越える価値はある名講義 著名な政治哲学者ジョン・ロールズが1970年代から行なっていた道徳哲学に関する講義の、1991年の最終原稿を元にして編集された講義録。…

竹島博之「カール・シュミットの政治」

「カール・シュミットの政治―「近代」への反逆」 偏見を持たれがちなシュミットの政治思想をバランス良く概観した良質な研究書 ナチスの御用学者と非難されがちなシュミットの政治思想を元々の歴史的文脈から読み解いた、解説書としても有用なバランスのとれ…

フリートウッド「ハイエクのポリティカル・エコノミー」のレビューと長々とした批判

「ハイエクのポリティカル・エコノミー―秩序の社会経済学」 前半の前期ハイエクへの哲学的な検討は今一だが、後半での後期ハイエクの知識論は秀逸 批判的実在論というメタ理論的な立場からハイエクの社会経済学を論じた著作。著者も言うように経済思想史の著…

酒井智浩「トートロジーの意味を構築する」のレビューとおまけ

「トートロジーの意味を構築する ―「意味」のない日常言語の意味論」 著者の言語学界への恨み節まで付き合わなければ、トートロジー文の言語学的分析として有用 これまでのトートロジ文に関する言語学的分析を批判的に検討し、その結論*1に伴って言語学の持…

金子洋之「ダメットにたどりつくまで」の簡潔なレビューとちょっとした批判

「ダメットにたどりつくまで (双書エニグマ)」 数学における反実在論の解説としては良質な、中級以上向けのダメット哲学への入門書 日本を代表するダメット研究者による、日本語で読めるおそらく唯一のダメット哲学の解説書。ただし、あとがきにもあるように…

木前利秋「メタ構想力」のレビューとその注釈

「メタ構想力―ヴィーコ・マルクス・アーレント (ポイエーシス叢書)」 専門書としても一般書としても一長一短な、よくがんばりました賞の人文書 私の個人的な興味とたまたま合っていた内容だったので試しに読んでみたが、褒めるほどでもなく貶すほどでもなく…

ディディ=ユベルマン「イメージの前で」から現在思想的な芸術論を学ぶ

「イメージの前で: 美術史の目的への問い (叢書・ウニベルシタス)」 現在思想的な美術史の脱構築としてまあまあの出来だが、今更読む意義があるかは微妙 まず始めに注意すべき点は、これは過去の芸術作品を扱った美術史そのものの本ではなくて、学問としての…

柴田寿子「スピノザの政治思想」を読んで勝手に考えたこと

「スピノザの政治思想―デモクラシーのもうひとつの可能性」 日本人学者によるスピノザ政治論の傑作 著者は既に故人だがそれが本当に惜しまれるほどのスピノザ政治論の大傑作。始めはアマゾンのレビューでも書こうと思ったが、既に見事に褒めてるレビューがあ…

中野剛充「テイラーのコミュニタリアニズム」の簡潔な書評と長い補足

「テイラーのコミュニタリアニズム」 テイラー思想の全体像を知る解説書としてなかなか悪くないが、食い足りない感も残る 日本では翻訳も紹介も貧しいテイラー思想をテーマにした日本では稀有な著作。共同体主義者や多文化主義者として有名なチャールズ・テ…

濱真一朗「バーリンの自由論」についての書評と意見

バーリンの自由論―多元論的リベラリズムの系譜 貧弱なバーリン論とバーリンの影響を受けた学者の単なる紹介を並べただけの本 自分の政治思想への興味の一環としてバーリンに興味を持ってこれを読んだのだが、完全な期待外れ。題名に反してバーリン自身につい…

浅野俊哉「スピノザ 共同性のポリティクス」の(アマゾンには載せにくい)レビュー

「スピノザ共同性のポリティクス」 スピノザ・ルネサンス以後のスピノザ論として悪くないが、それ以上の期待はしない方が妥当 二十世紀後半にフランスでスピノザを新たに読み直すスピノザ・ルネサンスが起こり、その影響を受けたスピノザ論としてはそれなり…

エヴニン「デイヴィドソン」に対する書評というより批判的検討からの論考

デイヴィドソン―行為と言語の哲学 デイヴィドソン哲学の総論としては貴重だが、解説は分かりにくく批判も説得力に欠ける デイヴィドソン哲学を全体として扱った著作は今でも珍しいが、解説書としては分かりにくい上に説明が独特な所も多く問題ありで、素直に…

バーリン「自由論」

自由論(新装版)(ただし引用は旧版から) 今となっては「二つの自由概念」しか読むに耐えないが、それでさえ価値的には資料に近い 消極的自由と積極的自由の二分法で有名になった「二つの自由概念」を含んだ政治思想家バーリンのエッセイ集。古典と化した「…

パワーズ「エコーメイカー」(元はアマゾン用の)書評

「エコー・メイカー」星4つ 脳損傷による精神障害を題材にした地味ながらも優れた大作 この小説が傑作なのは全米図書賞を採ったことなどからも分かるので、それについてはもう詳しく述べない。脳障害が題材になってはいるが、この作品に出てくる様々な脳障…

アルチュセール「マルクスのために」

今となってはマルクス主義の哲学としてよりも社会科学の哲学して読む方が面白い アルチュセールはマルクス主義やフランス現代思想の衰退と共にあまり読まれなくなってしまったが、実は余計なブームが終わった今こそ純粋な読解がなされる価値のある著者である…

デボラ・ブラム「幽霊を捕まえようとした科学者たち」

スピリチュアルものとしてよりも科学史として読む方が面白い 本のタイトルを見るとスピチュアルもの?と思ってしまうし、そう考えるのも間違ってはいない。著者は(生物学系の)サイエンスライターだけあって、当時の大衆的な動きを交えながら心霊主義騒動を…

バーバラ・エーレンライク「捨てられるホワイトカラー」

中流から下流へと零落するアメリカのホワイトカラー 評価:現時点では希少な報告だが、それほどお薦めできるわけでもない 現代社会における下流の貧困問題や中流の過労問題についてはすでに報告や著作が多く出ている。しかし、中流ホワイトカラーの没落問題…

ドゥルーズ「フーコー」

フーコー思想の見取り図を描いた、ドゥルーズにしては奇跡的に読みやすい穴場な著作 晩年フーコーは理解されない。晩年のフーコーに対して私的領域への閉じこもりと言う人もいる。しかし、フーコーは権力を分析することで私的領域など存在しないことを示した…

マインド・クエストASIN:4062137305

この本の大半を占めるのは意識の現象学を素材にしたミステリー仕立ての小説なのだが、小説としての出来はそんなに悪くないとはいえ途中でちょっと読むのに飽きたので、第二部の哲学的解説編を先に読んでしまった。私は認知科学も哲学もどちらもそれなりに分…

ジョージ・エインズリー「誘惑される意志」

「誘惑される意志」ジョージ・エインズリーASIN:4757160119、訳が悪くて読みづらかったダマシオの本を読むと何となく理解できる気がしてくる。人は感情と言う基盤の上で意識を成り立たせている。感情なしの意識はありえない。ここで、近視眼な判断をする双曲…

永井均「これがニーチェだ」

誤解のないように始めに指摘しておこう。永井均は現代の日本では珍しい、本物の哲学者であるということだ。日本には哲学に関連した著作はたくさんある。にもかかわらず、哲学者と呼ばれるにふさわしい人物は少ない。たとえば、木田元は第一級のハイデガー研…

「モバイルコミュニケーション-携帯電話の会話分析-」

コンピュータや通信を利用した共同作業を研究するCSCW(Computer Supported Cooperative Work) を扱った章があるってことで、広義の認知科学に入るでしょう(サッチマンへの参照もあるし、最終章など認知研究そのものの紹介)。とはいえ、CSCWの注目株であるエ…

ロルフ・デーゲン「フロイト先生のウソ」

題名からするとトンデモ本くさい(私もそう思っていた)。しかし、実は実証的な心理学研究に基づいて書かれたきちんとした著作。おそらく文庫で手に入る心理学本の中では最良(かつ唯一マトモ?)な著作です(新書ならマトモな心理学本はもっとたくさんある。ダン…

澤口俊之「わがままな脳」

日本人の書いた脳科学の解説書としては最良。この人はたまに怪しい本も手掛けるらしいが、この著作はまっとうです。この著者が国際的な第一級の脳科学者であることがよくうかがえる本。とりあえずお薦め。ただしこの著作、認知心理学に関する知識が怪しい、…

キューブリック「博士の異常な愛情」(映画)

この前、深夜のテレビでキューブリック「博士の異常な愛情」(映画)を見た。内容は、冷戦下における核兵器への恐怖を皮肉ったものだ。気づいた重要な映像技法の話をする。

角田光代「庭の桜、隣の犬」

これで角田光代の小説は三冊目だが、これは今まで読んだ中で一番よかった。というか、もしかしたら角田光代の最大の傑作かもしれない。「まどろむ夜のUFO」は若い頃の作品のせいか、自然なのはいいが甘い感じがしたし、「空中庭園」はちょっと無理に背伸…

言葉と音楽との関係についての参考文献集

小熊秀雄の詩の朗読を聴いて考え込んでしまった。もともと私は、一方でクラシックの古楽を好んで聴き、もう一方で英詩を入り口にして日本語の詩歌に興味を持った。この2つには結びつきがあるのだが、それは言葉と音楽との関係を媒介としている。宮台真司が…